絶望したメンバーが米国で資金を募ると、すぐにルービン本人から電話があり、「今からそっちに行く」と言う。数日後、幕張にあったシャフトに財務担当の女性を連れたルービンが現れた。2013年7月のことだ。
シャフトのメンバーから二足歩行の仕組みを根掘り葉掘り聞きだしたルービンは、白紙の小切手を差し出して言った。
「僕はこれからコーヒーを飲んでくる。君たちの会社をグーグルに売る気があるなら、そこに金額を書き込んでおいてくれ」
メンバーは侃々諤々の議論の後、考えうる最大限の金額をそこに書いた。戻ってきたルービンは小切手を見ると顔色一つ変えず、こう言った。
「あとの手続きは彼女がやってくれるから。じゃあ僕は帰るよ」
グーグルはシャフトを数百億円で買収した。「あの人、OSの人だよな?」。決断の早さもさることながら、シャフトのメンバーはロボットに関するルービンの見識の高さに舌を巻いた。シャフトはその年、米国防高等研究計画局(DARPA)のロボットコンクール予選で首位に立ち、世界を驚かせる。
ルービンは四足歩行の犬型ロボットで先端を行く米ベンチャー、ボストン・ダイナミクスも買収し、グーグルをロボット分野の先端企業に育てつつあった。しかし2014年に突然、グーグルを退社。翌年、スマホなどのデジタル端末を開発するエッセンシャル・プロダクツを設立した。ルービンが去ったグーグルはロボット事業を持て余し、ソフトバンクに売却した。
まだスマホを一機種発表した程度のエッセンシャルに、米国のアマゾン・ドット・コム、中国のテンセント、台湾の鴻海精密工業傘下のフォックスコンなど、世界の名だたる企業がすでに出資している。それは、「アンドロイドの父」であるルービンに対する期待の表れである。