米ビルボード誌が選ぶ「音楽業界でもっとも影響力のあるビジネスパーソン100人」で2017年版の1位に選ばれたのがダニエル・エク。まだ35歳の青年である。

 音楽業界と違法ダウンロードの闘いの歴史は古い。01年、アメリカ・レコード協会はインターネット上の「ファイル交換」でユーザー同士が無料で楽曲を交換して楽しむサービスを提供していた「ナップスター」を著作権の侵害で訴え、同社のサイトを閉鎖させた。その後、アップルのiTunesなど合法的な有料配信プラットフォームが整えられたが、「無料」の魅力は衰えず違法ダウンロードは後を絶たない。

 長い闘いの歴史に終止符を打ちそうなのが、08年にサービスを開始したスポティファイである。スポティファイは無料でも使えるが、月額980円(日本)を払うとより高機能なサービスが受けられる、いわゆる「フリーミアム」モデル。無料版で利用者を集め、有料版に乗り換えさせるビジネスモデルである。

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 無料ユーザーに対して数%の有料ユーザーが獲得できれば成功とされるが、スポティファイは無料ユーザーが9000万人に対し有料ユーザーが7100万人という驚くべき実績を残している。

ダニエル・エク(スポティファイCEO) ©共同通信社

 音楽好きのエクは、敬愛してやまないアーティストたちの経済基盤を脅かす違法ダウンロードに腹を立てていた。これを撲滅するためにエクが考えたのは「良貨で悪貨を駆逐する」。違法ダウンロード利用者は無料であるがゆえに、多少の不便さには目をつぶっている。例えば検索機能に乏しく、大ヒットしている楽曲は簡単に見つかるが、少しでもマニアックな曲は探しにくい。ダウンロードに長い時間がかかる場合もある。違法だから「こっちも聴いてみて」といった具合にネット上で情報を交換して楽しむこともできない。

 エクはこうした違法ダウンロードの弱点を徹底的についた。スポティファイはAI(人工知能)で利用者の好みを察知し、ストリーミングによって瞬時に再生が始まり、ソーシャル機能で同じアーティストのファン同士が盛り上がれる。