14歳で起業し億円単位の資金を手に入れた
エクのまだ短い半生を振り返ると、年齢で人の成熟度を測るのは間違いだと思い知らされる。エクがこのサービスの原型を思いついたのは02年、19歳の時である。だがエクはこの時、経営者としてすでに5年の経験を持っていた。14歳で起業し、ヴァーチャル着せ替え人形ゲームの「スタードール」などで億円単位の資金を手にしてもいた。エクはこのゲームにカルティエなどの高級ブランドを引き込むことに成功。すでにプログラマーとしてだけでなくマーケッターとしての才能もいかんなく発揮していたのだ。
慎重なエクはすぐには音楽ビジネスには参入しなかった。資金と技術力を貯める必要を感じていたからだ。相棒のスウェーデン人、マーティン・ローレンツォンとスポティファイを立ち上げたのは06年、23歳になっていた。2人はそれまでに得た手持ちの資金、800万ユーロ(約12億円)をつぎ込んで、スポティファイのシステムを開発する。出来上がると、エクは音楽会社からネット配信の許諾を得るために奔走。違法ダウンロードに頭を悩ませていた4大メジャーから許諾を取り付けた。
力任せではなく、万事合意を取り付けながら進むエクのビジネス・スタイルは、老成したベテランを思わせる。起業した14歳を起点に考えれば、社長としてすでに20年の経験を積んでいるからだろう。
今年4月には、スポティファイの親会社、スポティファイ・テクノロジーがニューヨーク証券取引所に株式上場した。株式時価総額は265億ドル(約2兆8000億円)。ここでもエクは焦らない。「投資資金は十分確保している」という理由で新株の発行や売り出しを見送り、既存株だけを上場した。新株を売り出せば創業者利得を確定させることもできたはずだが、それよりも証券会社に支払う莫大な手数料を節約する方を選んだ。「スポティファイを始めたのは金儲けのためじゃない」という自らの言葉を、行動で証明したともいえる。ただスポティファイはアーティストに年間約500億円という高額のロイヤルティを支払うため、会社としては依然、赤字が続いている。早熟な天才はまだしばらく、アーティストと音楽ファンがウィン・ウィンになる均衡点を探すことになる。