おぐらりゅうじ(右)=1980年生まれ。編集者。速水健朗(左)=1973年生まれ。ライター。 ©釜谷洋史/文藝春秋

「日本では岡崎体育が初めての事例となります」

おぐら 平昌オリンピックも閉幕して、それ以外にも大きな出来事はたくさんあるんですけど、賞味期限切れのニュースを扱う連載としては、岡崎体育が新しく作ったファンクラブをめぐる問題を取り上げましょうか。

速水 岡崎体育にしてみれば、何で炎上したんだろうって驚いただろうね。ちょっと新しい感じのシステムを取り入れようとしただけなのに。

おぐら 反響を受けて書いた本人のブログでは、〈今回僕が始めたファンクラブの新システムの内容は、会員ランクの設置とそのランクに応じたサービスの提供です。海外ではテイラー・スウィフトさんのファンクラブなんかが同じようなシステムを導入されているらしいですが、日本では岡崎体育が初めての事例となります〉と説明しています。

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岡崎体育 ©文藝春秋

速水 ようは、グッズを買ったりSNSで情報を発信したりするとポイントがもらえて、その獲得ポイントによって特典が得られるという、ポイント制のファンクラブシステム。

おぐら 優劣とか格差とか、ランクをつけられることに嫌悪感を抱く人は多いですからね。有料会員やグッズ購入はポイントが高いので、「大好きでもお金を払えない人もいるんだぞ!」「ファンの気持ちを金額ではかるのか!」っていう。

速水 有料会員になったりCDを買うことで握手会やサイン会に参加できるみたいなシステムは、今も昔も普通のことなのにね。

おぐら なので、これは岡崎体育のキャラクターや出自に要因があると思うんです。

速水 「岡崎体育のくせに生意気だ!」っていうジャイアン的な?

おぐら YouTubeの『MUSIC VIDEO』がブレイクポイントなので、無料のシステムが生んだスターなのに有名になったら金とるのか、みたいな。

速水 お金の匂いがしないから好きだったのに裏切られたってことか。誰だったら怒られないんだろう。ホリエモンとか?

おぐら 与沢翼とか。そういった人たちがファンクラブを階級制にしたところで、ここまでの炎上はしなかったでしょう。

速水 じゃあ、なんの違いだろう。単にキャラって重要だよねって話か。

おぐら キャラと好感度はあると思います。ベッキーの不倫が象徴的ですけど、好感度の高さって、企業の看板商品のCMに起用されたりという大きなメリットと同等に、大きなリスクも抱えます。ちょっとした不正も大問題に発展しますし、キャラに合わないことをしたときに支払う負債がめちゃめちゃ大きい。

ベッキー ©文藝春秋

速水 岡崎体育の場合は、いい人っていうよりも、いわゆるスター性とは違う評価の人だってところだよね。あっち側ではなく、こっち側みたいな。

おぐら そう、その「あっち」と「こっち」っていう感覚は大事で。芸能の世界でいえば、たとえば宝塚のスターは「あっち」側でいることを求められていますし、YouTuberは「こっち」側の人として支持を集めています。

速水 こっちからあっちに行くのは相当に難しいよね。

おぐら ファンクラブの名前が「Wallets」=財布なので、そこは皮肉の要素も入ってると思うんですけど。いっそ『FAN CLUB』っていうタイトルで、ファンクラブあるあるの曲を作ったらよかったのに。

速水 まあだけど、岡崎体育は相当に売れたわけでしょ。むしろ気になったのは、今の時代でもちゃんとファンクラブってつくらないとやっていけないんだってところ。

おぐら ファンクラブってどのくらい前からあるんですかね。

速水 言い方は違えど、後援会というシステムはかなり前からあるでしょ。ちなみに、昔はレコードの中にチラシが入っていて、ファンクラブ入会費分の切手を送ると、年に数回の会報が送られてきた。

おぐら 今だとコンサートチケットの先行販売とか。運営側もある程度は囲い込みたいでしょうし。基本的なシステムは今も昔も変わらない。

速水 その中で、ちょっと現代の音楽ビジネスの在り方を自覚していそうな岡崎体育が、新しいシステムのファンクラブをつくったら炎上した。その辺は掘り下げるべきテーマな気がする。