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岡崎体育ファンクラブ炎上問題から考える、ファンと消費者の違いとは?

速水健朗×おぐらりゅうじ すべてのニュースは賞味期限切れである

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「お金を払いたい快楽」と「絶対に払いたくない嫌悪感」のせめぎ合い

おぐら ファンが公演やコンサートの物販で色違いのグッズを買ったりするのも、消費というより応援メッセージのほうですよね。

速水 そう。ファンもお金を払うのはかまわないんだよ。

おぐら むしろ、熱心なファンはお金も時間も全部つぎ込みたい! と思ってますよ。大好きなアイドルのために握手券付きのCDを何百枚も買うし、舞台であれば昼公演も夜公演も行く。

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速水 なんなら全国ツアーにだって付いていくし。

おぐら こういう生き方はもはや定番になってますよね。このへんの事情は『浪費図鑑 ―悪友たちのないしょ話―』(小学館)という本で読んだのですが、はっきりと〈これは「浪費」ではなく、「愛」です〉と書いてありました。

速水 好きなものにお金を捧げる快感。それは明らかに昔よりも強くなっている感じがする。

おぐら 好きな対象にお金をつぎ込む快感がエスカレートしている一方で、それ以外には1円たりとも払いたくないって人たちも増えてます。ファンとは真逆で、お金を払わないためなら時間も労力も惜しまない。

©釜谷洋史/文藝春秋

速水 それこそ海賊版サイト「漫画村」の問題とかもそうだけど、スマホのコンテンツなんだから無料で当たり前。お金を払ってるやつは情弱みたいな風潮もある。あと何でもコスパを至上主義的に持ち出すコスパ資本主義ね。

おぐら 吉野家の牛丼無料キャンペーンに大行列できて、車が渋滞するんですから。

速水 あれに至っては、時間を浪費しているわけだから、コスパがいいわけですらない。そもそもファンとも違うし消費者でもないし、何なんだろうね。

おぐら 今の時代は、お金を払いたいっていう快楽と、絶対にお金を払いたくないっていう嫌悪感がせめぎ合っているんでしょうね。

速水 そこすごく大事な気がする。

おぐら しかも、収入というか資金力はそれほど関係なくて、好きなものにはジャンジャン課金する人が、一方では無料のために違法ダウンロードもするっていう。なんか、お金に対する姿勢や態度そのものが変わってきています。

速水 生活費は、切り詰めようと思えば、いくらでも切り詰められる時代ではあるしね。昔は、雑誌とか映画とか、ひまつぶしって一番お金かかるものだったけど、いまはそれにお金は払わない。その分、好きなものに投資するのか。

おぐら もうグッズやチケットとかじゃなくて、本人の銀行口座がわかれば直接振り込むのにっていうファンの声もよく聞きます。

速水 さっき取り上げた『ファンダム・レボリューション』って本には、コンテンツの購入より、もっと直接的なパトロネージの方が機能するようになりつつあるという話も出てる。PATREONっていうファンが好きなクリエイターを直接支援できるプラットフォームなんかが、アメリカではすでに定着しているって。

おぐら 日本でもそういうお金の流れになっていきそうな予感はしますね。

速水 でも、それが幸福かっていうと、少し疑問なんだよね。間にメディアとか仲介業者とか仲卸しとか金融機関が入らないで、直接送り手や作り手とファンが結びつくのがインターネットの良さで、そこの垣根が崩れた先に、岡崎体育の問題もあるわけでしょ。

©釜谷洋史/文藝春秋

おぐら クラウドファンディングを利用して、誰でも投資を受けることができる時代でもありますし。中間なり第三者を不要と思う傾向は、マスコミ嫌悪にも通じます。テレビや雑誌が伝える事務所チェックをクリアした情報よりも、本人が直接発信するSNSのほうが求められている。

速水 でも、それが引きおこす危うさって、これから増えそう。例えば株式は、投資した会社がつぶれたからって、際限なく借金を取り立てられたりしないわけ。あくまで間接的な投資。会社だってそうでしょ。個人と法人を切り離すことで、個人が傷つくことを回避できる。だけど、インターネットって、そういう間接性によって守られていたものがなくなる恐さがある。

おぐら たしかに、SNSで人気を獲得する芸能人がいる一方で、炎上して傷ついている姿もよく見ます。事務所やメディアを通さないと、事前に防いでくれるフィルターがないわけですから。

速水 芸能人ね。事務所とかをスルーしてお金を直接ファンから投資してもらって活動するみたいなケースは増えるだろうね。

おぐら その最新版が、自ら仮想通貨を発行したGACKTってことでいいですか?

速水 あ、スピンドル! 通称GACKTコインか。4月に「全世界クラウドセール開始」を打ち出してるね。

GACKT ©getty

おぐら 仮想通貨の発行は、ほかの芸能人にも波及しますかね。

速水 ちょっと前まではよく芸能人が広告塔になって投資を呼びかけるみたいなやつってあったけど、自ら仮想通貨を発行=ICOするっていうのは新しい。

おぐら このタイミングで小室哲哉が仮想通貨を発行したら売れないですかね。 TKコイン。

速水 あ、それは絶対に買わない(笑)。まあ買うならYOSHIKIプロデュースの「EXTASYコイン」がいいかな。

おぐら じゃあ、二人で通貨をジョイントして「V2コイン」ならどうでしょう?

速水 それ絶対ハードフォークされて解散しちゃうやつだから!

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