「傍からみれば、『社会学者が今度は銀英伝にいちゃもんをつけてきた』という構図だったはずです」

 当時、法政大学社会学部教授だった津田正太郎さんはなぜ『銀河英雄伝説』のアニメについてつぶやいただけで炎上してしまったのか? その経緯を新刊『ネットはなぜいつも揉めているのか』(筑摩書房)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

私の炎上体験

 2020年9月11日午前11時41分、いつものようにカフェで仕事をしていた私は、ふと思いついて次のような連続ツイートをしました。

 銀河英雄伝説のリメイク。三期以降も続くのかな。もしそうなら、男女役割分業の描き方は変更せざるをえない気がする。旧アニメのままだと、さすがに時代にそぐわない。作品として大変に面白いのは踏まえたうえで。…なんてことを書いたら炎上するかな。実際のところ、昔のドラマやアニメをみていると、価値観の変化がもっとも顕著なのがジェンダーの描き方だという感はある。そういう変化を踏まえたうえで作品を楽しめばよいわけで、ジェンダー関係の指摘は作品を全否定することだというのは違うと思うんだけどな。

『銀河英雄伝説』(以下、銀英伝と表記)をご存じない方も多いでしょうから、上記のツイートの背景を簡単に説明しておきます。1982年に出版が始まった田中芳樹の小説である銀英伝は、初登場から40年が経過した今も根強いファンがたくさんいる人気作品です。アニメ化やコミカライズ、ゲーム化などのメディアミックスもさかんに行われ、1988年から2000年にかけて一度目の、2018年からは二度目のアニメ化が『Die Neue These』として進行中です。

スペースオペラの大傑作『銀河英雄伝説』(写真:東京創元社サイトより)

 この作品の舞台となるのは、遠い未来、人類が地球を離れてさまざまな惑星に分かれて暮らしている宇宙です。そこでは民主主義体制をとる自由惑星同盟と、皇帝と貴族によって支配される銀河帝国という二大勢力が激しい戦いを繰り広げており(他にも勢力はあるのですが、ここでは省略します)、堕落した同盟側と、清廉かつ有能な独裁者を擁するようになる帝国側との対比がきわめて印象的に描かれています。

 このように書くと、民主主義を否定し、独裁制を擁護するような作品に思われるかもしれませんが、実際には主要登場人物によって民主主義の理念が滔々と語られるなど、民主主義のあるべき姿を考えるうえでも勉強になる小説だとも言えるでしょう。

 私は高校生のころに銀英伝に親しんでいたものの、その後は縁が切れてしまっていました。ところが、2018年から『Die Neue These』の第一シーズンの放送が始まったことから、再びこの作品を視聴するようになりました。改めてみると、やはり大変に面白い作品です。

 2019年から始まった第二シーズンも楽しく視聴していたのですが、続きが待ちきれなくなってきました。そのとき、私が加入しているアマゾンプライムで最初にアニメ化されたときのエピソードが全て公開されていることに気づきました。そこで私は、2020年の夏をそれらのエピソード(全部で110話あります)の視聴に費やしていたのです。

 それらも大変に面白かったのですが、少し気になることがありました。