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――ここでも、司法試験にも出てこないマニアックな話がドラマになっているんですね。

國本 そうなんです。寅子の父親が巻き込まれた事件の元ネタの「帝人事件」は有名なようですが、僕は全然知りませんでした。第2週で登場した、DV夫との結婚が破綻した妻が嫁入り道具の着物を取り返そうとした「引き渡し請求事件」も司法試験受験生が読む程度の判例集には載っていない小さな事件です。だから僕は、SNSで他の弁護士や出版社の方が「出てきたあの事件の元ネタは……」と解説してくれるまで、実際の事件をモデルにしているかどうかすら判断がつきませんでした。脚本を書いた方は一体どうやって調べたんでしょうね。

――國本先生がSNSで「脚本侮っててすんませんでした」と謝罪する“事件”もありましたね。

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國本 僕以外にも法律家がたくさん引っかかった「毒饅頭事件」の時ですね。

――寅子たちが所属する女子部法科が存続の危機に陥って、PRのために学園祭で披露したのが、実際にあった事件をもとに作られた演劇でした。

事件に巻き込まれる寅子の父親

國本 医学生が医者になった途端に恋仲だった女給を捨て、捨てられた女給が腹いせに防虫剤入りの毒まんじゅうを送りつけ、医者とその祖父が亡くなるという演劇でした。

  これは実際にあった「チフス饅頭事件」がベースなのですが、本来は「女給ではなく女性医師による犯行」で「防虫剤ではなくチフス菌」。それを学長が「法律を学ぶ女性たちが、弱い立場の女性を救おうとしているように見えた方がいい」という理由で改変する強烈な場面に仕立てていましたよね。

元の事件を知っていた法律家ほど驚きが大きかった

――現実をデフォルメしたのは『虎に翼』の脚本家ではなくて、登場人物である学長の企みだったというひねった構造に唸っていた法律家の方が多くいました。

國本 僕も最初、ドラマ用に面白くデフォルメしたんだと思っていました。でも視聴者がそう思うことすら脚本家の計算で、完全に手のひらの上で踊らされました。調べたりレクチャーを受けた実在の事件をそのまま使うのではなく、脚本家が完全に消化してドラマのテーマに合わせて応用したということですから、もうすごすぎますよね。

――元の事件を知っていた法律家ほど驚いたのですね。

國本 あと取材の前に第1話から観なおして気になったことをメモしていたのですが、どのエピソードも全部、1話につながっていることに気がついてそれも感動しました。

――1話につながっている?

主人公・寅子を演じる伊藤沙莉 ©文藝春秋

國本 第1話の冒頭で、寅子が日本国憲法が交付されたという新聞記事を読んで涙を流している場面がありますよね。そこからカメラが憲法14条にフォーカスして、ナレーションの尾野真千子が「すべて国民は法の下に平等であって…」と読み上げるじゃないですか。そして色々な苦境を抱えている女性たちが画面のあちこちに映ります。

  そして『虎に翼』に登場するエピソードの1つ1つが、当時の女性や社会的に弱い立場に置かれた人たちの「平等ではない」苦しみのパーツになるんだと思うんです。