――「80年近く前の話のはずなのに、まるで現在の差別を見ているようだ」という人も多くいます。
國本 2024年の現状だけを見ると、確かにまだまだひどい差別はあります。でも法とか法律って自然現象のように勝手に出てくるわけではないので、もっとひどい状況の中で戦って、努力した人たちの積み重ねで改善が進んできて今があるのも事実なんです。それを理解するには、歴史を学ぶ必要がある。でも司法試験対策ではそういう勉強は全く必要ないから、歴史という縦軸が抜けてしまう可能性はあるのだなと改めて思いました。
『虎に翼』は、「日本国憲法97条のドラマ化」
――法律の歴史だと、たとえばどんなことがポイントなのでしょうか。
國本 戦後に日本国憲法ができて女性が初めて参政権を得て、女性国会議員が誕生しました。でも、憲法が規定する理想どおりに女性差別がすぐ解消されていったかと言えば、そんなことはない。例えば「女性は結婚したら退職する」とか、「女性は男性より定年が早い」という就業規則がある会社も当時はたくさんありました。でもそれは憲法14条には違反せず、ただの区別だという解釈だったんです。
それを変えたのは、結婚退職制度を訴えた住友セメント事件(1966年に地裁判決)の鈴木節子さんや、既婚女性の昇給・昇給格差の撤廃を訴えた住友三裁判の女性社員たち。その陰には、家族の反対で裁判に加わらなかった女性たちも多くいました。
憲法ができて終わりじゃなくて、戦後の日本人の中から「これはおかしい」と言って立ち上がり、裁判を起こして勝つ人が出て、戦う人たちが次々につながっていったからこそ、今があるわけです。
――その1人が、『虎に翼』の寅子のモデルになった三淵嘉子さんでもあるわけですね。
國本 そうです。だから僕は『虎に翼』は、「日本国憲法97条のドラマ化」だと思っているんです。
――憲法のドラマ化?
國本 97条には「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」とあります。まさにこの「多年にわたる自由獲得の努力」の部分を描いているんだと思います。
しかも主人公の寅子は弁護士になって歴史に名前を残したけど、自由を求めて戦ったものの押しつぶされてしまった人たちも多い。でも憲法97条には、そうやって殴り殺されて屍になった名もなき人たちのこともリスペクトしなさいよ、と書いている。それが『虎に翼』の中で、苦境に置かれた女性やホームレスなど、無名の人たちが何度も登場するところに示されています。
こんなに深く日本国憲法の理念を理解したドラマは見たことが無くて、毎回のように「なんなんだこれは!」と驚きながら見ています。