運命に抗ったり、権力の餌付けを拒んだりする人が、人知れず生きている。その無名人を見つけ出し、実名の彼らと為した仕事を書き残すことが、私の生業である。

 幸いなことに、理解者は映像の世界にもいて、私のゴツゴツとしたノンフィクションをテレビドラマや映画に仕立てて下さる。

 今回、私の著書『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」23年間の記録』(文春文庫)が、月川翔監督のメガホンで大泉洋さん主演の『ディア・ファミリー』として、6月14日から全国公開されることになった。『しんがり』『石つぶて』『トッカイ』のWOWOWドラマに続いて、映像化は4作目である。

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次女の命を救うために奔走する夫婦を演じる大泉洋さんと菅野美穂さん©2024「ディア・ファミリー」製作委員会

取っ組み合いで挑んできたこれまでの「映像化」

   映像化は事実を広く知っていただくうえで、とても有難い。ノンフィクション冬の時代に書き続けるには、志だけでなく暮らしも立てなければならない。

 だが、活字と映像では事実の捉え方や描く手法が異なるため、原作を映像化する彼らとの作業や交渉は取っ組み合いに近いものがあって、毎回、映像プロデューサーらとくんずほぐれつ、喘ぎながら公開の日を迎えてきた。(たぶん、彼らも同じ思いなのだろう)。

 映像脚本の修正をプロデューサーに申し入れたり、逆にやり込められたりするのは序の口で、私の作品に実名登場してもらった主人公たちから「本の内容とドラマの内容が異なっている。事実はこうではない」と何度も叱られる。なだめたり、制作側との間に挟まって四苦八苦したり、決裂して友人を失ったりもしてきた。

 捜査二課の刑事の矜持を描いた『石つぶて』では、ドラマの予告映像に、取調室の刑事がヤクザの頭を電気スタンドで小突いて追及するシーンが流れた。とたんに主人公の元刑事から電話がかかってきた。

「俺はたとえヤクザでも、被疑者は殴らないで落とす(白状させる)ことを誇りにしてきたんだ。何だ、あのシーンは! これじゃあ、親戚にも顔向けできんよ」