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 わが自宅だけでなく、WOWOW本社に怒鳴り込むほどの勢いである。予告映像は、刑事の情熱を物語る鮮烈なシーンだったが、元刑事と私で激論の末に、「殴らないのが俺たち二課刑事(ニカデカ)の誇りなんだよ」と言われては仕方ない。プロデューサーに頼んで、本番の放送ではそのシーンを控えめにしてもらい、元刑事の納得を得た。

 別の作品では、どうしてもドラマの内容に納得してもらえず、せっかく築いた情報源との信頼関係を失ったこともあった。自分の人生を賭けた行動や決断を映像はくっきり過ぎるほどに描こうとするから、生身の当事者は激しく反応するのである。それも原作者の責任と割り切って取り組むしかない。

 今回の『アトムの心臓』について、WOWOWと東宝から私に映画化の打診があったのは、6年前である。だが、本当に上映にこぎつけられるのか、私は今まで以上の危うさを感じていた。

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心臓疾患を抱える次女・佳美を演じた福本莉子さんと、父親役の大泉洋さん。©2024「ディア・ファミリー」製作委員会

1000人の涙は、悲しみと一筋の希望だった

 この物語は、心臓病の二女佳美さんを救いたい一心で人工心臓づくりに挑んだ筒井宣政(のぶまさ)一家の苦しく、切なく、しかし明日に向かう実話だ。主人公の筒井さんは柔道四段、小さな猛牛のような体に「鈍感開発力」を秘めた強烈な町工場の主である。

 私は筒井氏を23年前から知っていたが、彼を支えた妻の陽子さんは佳美さんの思い出を語るたびに大粒の涙をこぼした。家族の中にもそのころの苦悩や深い喪失感に触れたくないという空気があった。大勢の撮影陣がその壁を乗り越えられるだろうか、と私は思ったのだ。

 しかも、撮影陣の前にはコロナ禍が立ちふさがった。「この人以外の主演はあり得ない」とプロデューサーに言わせた大泉洋さんと製作陣のスケジュールも合わなくなり、撮影自体が延期されてきた。

 そして6年が過ぎた。5月13日のことである。

『ディア・ファミリー』の完成披露試写会に足を運んで、私は不思議な体験をした。会場には、関係者を除いて1000人が詰めかけ満員だった。

 筒井家の人々と私は中段の席にいたが、試写が進むにつれて、温もりを帯びた闇から無数のすすり泣きが沸き上がって、さざ波のように前後左右から迫ってきた。大勢の観衆が声を殺して、こみあげてくる悲しみと一筋の希望を受け止めようとしているのだ。その波音が筒井家の人々を優しく熱く包んでいる。

 筒井家の長女、奈美さんは、すすり泣きの波音に心が震えたという。私は2カ月前の関係者試写会で流すことのなかった涙が頬を伝うのを感じた。