あるいは『美しき罠~残花繚乱~』(2015年)では、元不倫相手の妻(若村麻由美)からさまざまな罠を仕掛けられ、翻弄されるOLを演じた。ドロドロの愛憎劇である同作に出演時のインタビューで田中は、俳優という職業の魅力を訊かれ、《ドラマチックな人生を生きられるのが魅力だと思います。現実的に考えたら生活が破滅するようなことも、女優という仕事を通してなら経験できます。私は、普段の生活は平凡に過ごしたいと思っているので(笑)、日常では体験できない刺激とドラマを、仕事を通して与えてもらっている感じです》と語っている(『サンデー毎日』2015年2月15日号)。
結婚・第一子を出産
俳優のなかには私生活もドラマチックで、そのためにスキャンダルを起こしてしまう人もいるが、彼女は演じる役と普段の自分に一線を引くところがあるようだ。私生活ではこの翌年、2016年に一般男性と結婚している。
家庭を持ってオンとオフの切り替えがうまくなったせいなのか、周囲からは、結婚してから女優としてよくなったと言ってもらうことが増えたという。それでも、芝居をするのが好きなことに変わりはない。役者としての武器がほしいとの思いから、20代で始めた茶道、日本舞踊、ヨガ、中国語、英語といった習い事もずっと続けてきた(『婦人公論』2019年7月23日号)。
2019年には第一子を出産し、しばらく休業したあと復帰するも、以前のように3ヵ月間現地で撮影というような仕事はできなくなった。いまは子供との時間を大切にしながらも、無理をせず、両立できるよう心がけているという(『からだにいいこと』2024年4月号)。
東出昌大を誘惑する場面も
そのなかで出演した昨年公開の映画『福田村事件』は、1923年の関東大震災の混乱のさなか、デマを原因として関東のある地域で起こった惨劇を描く、これまたハードな作品であった。同作で彼女が演じた女性は、当時、日本の統治下にあった朝鮮の国策企業の社長令嬢ながら、そんな自分の立場に疑問を抱き、夫の郷里に駆け落ち同然でやって来る。夫はある出来事をきっかけに性的不能になっていたこともあり、不満を募らせた彼女が、つい、現地の渡し舟の船頭(東出昌大)を誘惑して関係を持ってしまう場面もあった。
そんな自身の役を田中は、夫役の井浦新とそろって応えたインタビューで「つかみどころがない」と表現したところ、井浦から「得意分野じゃないですか。(笑)」と言われたのを受けて、《本当ですね。私自身もしっかりと答えを出すようなタイプではなく、矛盾だらけのまま生きているので(笑)》と述べている(『福田村事件』公式パンフレット、2023年)。
田中麗奈の真骨頂
しかし、一言でそのキャラクターを表してしまえるような役よりも、矛盾だらけの人物を矛盾したまま演じるほうがよっぽど難しいだろう。井浦が言ったとおり、それを得意とすることこそ、俳優・田中麗奈の真骨頂といえそうだ。
田中も40代半ばとなり、『ブギウギ』のラクチョウのおミネにしてもそうだが、貫禄のある役も似合うようになってきた。そろそろ「なっちゃん」のCMで加賀まりこが扮していたような大女優を、今度は彼女自身が演じるのも見てみたいところである。