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《それ以来、映画だけにこだわらなくてもいいのかなと思うようになりました。ひとりでも多くの人が感動してくれたり、ただ単に「面白い!」と楽しんでくれたり、「観てよかった」と思ってくれる作品に参加できればいい。映画でも、ドラマでも、雑誌の撮影もそう。人を楽しませたいという気持ちが真ん中にあるんです》(『婦人公論』2005年8月22日号)

三浦友和が贈った言葉

 中国でのドラマ初主演以外にも、田中は若いときからほかの女優がしたことのないような経験に恵まれてきた。2000~01年には、世界で初めてインターネットのみで配信された映画『好き』で主演を務めている。

世界で初めてインターネットのみで配信された映画『好き』(2000~01年)では主演を務めた

 30代に入るとさらに役の幅が広がっていく。映画『源氏物語~千年の謎~』(2011年)では愛憎に苦しみ、ついには生き霊となる六条御息所をワイヤーアクションも使って堂々と演じきり、それまでの自身のイメージを打ち破ったと評価された。

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 さらに映画『葛城事件』(2016年)では殺人犯と獄中結婚してその心の闇に向き合う女性を演じ、俳優として大きな転機となる。ただ、その演技は高く評価されながら、映画賞の受賞というわかりやすい形にはつながらなかった。それでも、このとき主演を務めた三浦友和からは、俳優の先輩としてこんな言葉を贈られたという。

《今回の演技で、これからの女優としてのポテンシャルが見た人には確実に伝わったし、絶対に次につながっていく役だから、誇りに思ったほうがいいとお言葉をいただいたんです。(中略)『役者は何が転機になるかわからない。あなたのように、ここまで熱をもって演じられる人はいないから、頑張りなさい』って。その言葉は、15歳でデビューして、20年ほど演じてきた自分にとってのなによりのご褒美で、そして実際、『葛城事件』を見て、三島監督が今回の映画に呼んでくださった。30代になって以前よりまして、演技が面白くなってきて、自分でもどこか自由になってきたような気がします》(『キネマ旬報』2017年9月上旬号)

映画『葛城事件』(2016年)では殺人犯と獄中結婚する女性を演じた

 引用した発言中に出てくる「三島監督が今回の映画に……」というのは、三島有紀子監督の『幼な子われらに生まれ』(2017年)を指す。同作では浅野忠信と互いに再婚どうしの夫婦を演じ、彼女の連れ子である姉妹のうち姉が夫を父親と認めようとしないことから、家庭が崩壊の危機に直面する。

 出演に際して田中は、三島監督と事前に話し合い、《表面的には出さないけれど、私としては、この映画の隠れテーマとして、母の強さと生き抜く力、家族の軸であるぶれなさを表現したいと》伝えたという(『キネマ旬報』前掲号)。そう言われてこの映画を観ると、たしかに彼女演じる妻は、夫と娘のあいだで戸惑いながらも、最後まで家庭を守ろうとしていることに気づく。彼女の思いは実を結び、同作ではキネマ旬報ベスト・テンの助演女優賞など賞も多数贈られる。

元不倫相手の妻から罠を仕掛けられ…

 これと前後してテレビドラマでも新境地を拓いていく。演劇界の鬼才・前田司郎の脚本による『徒歩7分』(2015年)では、近所の弁当屋と元カレを訪ねる以外は家に引きこもり、だらしない生活を送るヒロインを演じた。そのあまりのダメっぷりに田中は《客観的に見てみると、全然私とは違う!と言いたくなりますね》と口にするほどであった(『ステラ』2015年1月16日号)。そんな同作ではとくに、ヒロインがふとした弾みで自宅のトイレに閉じ込められ、助けを求めるさまを丸々一話分使って描いた第5話が傑作である。