先月初めより毎週月~木に放送されてきたNHKの夜ドラ『VRおじさんの初恋』が最終週を迎えている。野間口徹演じる主人公のサラリーマン・直樹が、VR空間で知り合った美少女アバター「ホナミ」(井桁弘恵)と恋をするというこのドラマでは、中盤で彼女の正体が、病気のため余命いくばくもない70歳前後の男性・穂波(坂東彌十郎)と判明して以降、VRの世界にも現実が急速に絡んでいく。そのなかで登場したのが、飛鳥という穂波の娘だ。
飛鳥と穂波のあいだには長年にわたり確執があり、ドラマ後半では、二人の関係をいかに修復させるかが、物語の展開上、重要な鍵となる。飛鳥はIT企業の経営者でありながら、VRにはまるで興味がなく、家庭でも女手一つで育てる息子に自立を促すためドライに接したりと、いわば劇中において現実世界を象徴する役どころであった。そんな彼女を演じたのが、きょう5月22日、44歳の誕生日を迎えた田中麗奈である。
田中は、やはりNHKで今春好評のうちに幕を閉じた朝ドラ『ブギウギ』でも、終戦直後に「ラクチョウのおミネ」の名で知られた東京・有楽町の街娼を演じていたことが記憶に新しい。
「なっちゃん」で鮮烈なデビュー
劇中、おミネはある雑誌の記事のせいで、趣里演じるヒロイン・福来スズ子のことを誤解して敵視する。これに対しスズ子は誤解を解こうと、おミネのもとに単身乗り込むのだが、このとき、おミネが真っ赤なスカートから素足をもろに出して坐る姿は、いかにも姉御然としていた。その姿を見たら、彼女が26年前にデビューしたころから知る世代としては、ちょっと感慨を抱かざるをえなかった。
田中の本格デビューは清涼飲料水のCMで、商品と同じ名前の新人女優「なっちゃん」の役で出演した。シリーズとして2年ほど続いた同CMの第1作「舞台編」は、芝居の終演後、客席から“なっちゃんコール”がやまず、加賀まりこ演じるベテラン女優から「あなたの名前よ」と言われたなっちゃんが、再び幕の上がった舞台で深々とおじぎをし、顔を上げると涙を浮かべている……というものだった。田中はこのとき18歳になる直前で、本当に初々しかった。CMではその後も、なっちゃんが成長していくさまがドラマ仕立てで描かれることになる。
田中が俳優になろうと思ったのは、幼い頃にまでさかのぼる。ごっこ遊びが好きで、テレビドラマの真似などをよくしていたという。他方で、5歳ぐらいのとき、地元である福岡県久留米市から松田聖子やチェッカーズが出てきたため、親たちのあいだでは「うちの子も芸能人に」という雰囲気があったらしく、《それが私の潜在意識に女優っていう仕事を埋め込んだんじゃないかなぁ(笑)》とも語っている(『CREA』2000年11月号)。