恐竜研究の分野で革新的な発見が相次ぐ中国。いまや恐竜種の発見数もアメリカを抜いて世界一となっている。一方で、盗掘・密売や政治関与といった諸問題も少なくない。中国恐竜界の知られざる実情とは。
ここではノンフィクションライターの安田峰俊氏が執筆、古生物学者の田中康平氏が監修を行った『恐竜大陸 中国』(角川新書)の一部を抜粋。中国経済の中心地、広東省で発見された化石にまつわるエピソードを紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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9歳少年、広東省でタマゴ化石を大発見【ピンナトウーリトゥス】
近年、中国発のサイバーイノベーションが有名になり日本でも注目されるようになった広東省の大都市・深圳は、市内常住人口の平均年齢が32歳程度という非常に若い街だ。深圳はもともと、香港に隣接していた田舎の漁村だったが、1979年に改革開放政策が施行されたことで急速な発展を遂げたのである。
そんな都市だけに、深圳は中国の街としては逆に珍しいほど、歴史的な遺物がすくない。市内西部の南山区にある南宋の最後の皇帝の墓「宋少帝陵」(ただし作られたのは1911年)と、市内北部の龍崗区に客家(独自の文化を持つ漢民族内部の方言グループ)の古民家が保存されていることくらいである。
ところが、そんな歴史なき都市・深圳で、もっと古いものが見つかった。
2013年7月19日、夏の強烈なスコールによって市の西部の坪山区で地すべりが発生。区の地質調査員が被害状況の確認に現地に向かったところ、土砂のなかに不思議な丸い部分を持つ岩盤を複数発見したのである。
深圳ではじめての恐竜化石
発見者が地質の専門家たちだったことで、これが化石であることはすぐに見当がついた。
調査員は市の土地計画開発委員会坪山管理局に電話で報告して岩盤を持ち帰り、あらためて何度か専門家の鑑定を受ける。結果、やはり、恐竜のタマゴの化石(が含まれた岩盤、以下同じ)であった。