「M銀行の行員はみな、こんなことはもう二度とごめんだと思った」
ATM復旧の目処は立たず、飲み会や電車内での会話も禁止に……。合併当日にシステムエラーが起きたM銀行の行員たちを襲った不幸の数々とは? 現役行員の目黒冬弥氏による『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記 このたびの件、深くお詫び申しあげます』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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収まらない混乱
夜11時に帰宅すると、心配した妻が駆け寄ってきた。
「旧F銀行のATMでは旧F銀行のキャッシュカードしか使えなかったんだって。逆に旧D銀行のATMでは旧F銀行のキャッシュカードが使えなかったみたいよ」
皮肉なことに、家でテレビを観ていた妻のほうが事態を詳しく把握していた。
テレビをつけ、NHKニュースを見て、私もようやく全容をつかめた。わがさいたま新都心支店だけではなく、M銀行の全支店でシステム障害が起きていた。
翌日、出社すると、副支店長から説明があった。
「現在もまだ一部のATMでは復旧のメドは立っていない。いつ復旧するかもわからない。だから、お客さまからこれらの事象について質問を受けた場合、回答は『ご迷惑をおかけして申し訳ありません』だ」
行員から質問が出た。
「いつ直るのか聞かれたら、どうすればいいんですか?」
「ひたすら謝るしかない。断定的な回答をしてはならないし、推測を交えて言うのもダメだ」
また昨日と同じ対応を繰り返さなければならないのかと思うと、気分が暗くなった。
「それからもうひとつ大切なことがある!」
副支店長の声のトーンが一段階あがった。
「マスコミからの取材は絶対に受けてはならない。路上などでカメラを向けられてもノーコメントだ。勝手に私見を述べることは絶対許さないから気をつけろ。それからプライベートでの行動にくれぐれも注意しろ。しばらくのあいだ、飲み会も禁止だ。電車内でもこの件について話してはならない!」
そして、4月3日以降、複数の事故が続発した。口座振替では、数万人のお客の税金や公共料金が二重に引き落とされていた。しかも引き落としたお金を受け取るはずの税務署・ガス会社・水道局・電力会社にお金が送金されていなかった。
引き落としたお金のデータがどこかに消えてしまったのだ。この状況を知った野々村君が捨て鉢ぎみにつぶやく。