「申し訳ございません。危険ですので店内は入場制限しております! ご迷惑をおかけします! 申し訳ございません……」

 2002年4月1月、F銀行と、D銀行、N銀行の三行が統合して生まれたM銀行。統合初日という記念すべき日に、行員たちを襲った異常事態とはいったい…? 当時の喧騒を、現役行員の目黒冬弥氏による『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記 このたびの件、深くお詫び申しあげます』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

すべてのATMが動かない…この異常事態に行員たちはどう対応したのか? 写真はイメージ ©getty

◆◆◆

ADVERTISEMENT

世界最大の巨大銀行グループ誕生の日に起きた異変

 2002年4月1日、月曜日。私が働くF銀行と、D銀行、N銀行の三行が統合し、M銀行としてスタートする日だった。当時、私は埼玉県のさいたま新都心支店の取引先課に勤務していた。

 その前の週、外まわりの営業担当であるわれわれ取引先課に簡単な説明があった。

「今までのF銀行の伝票は使わないでください。必ず新しいM銀行の伝票を使ってください」

 われわれ行員にとりたてて緊張感があったわけではない。

「お客さまがF銀行の支店からD銀行の支店に振り込む場合、振込手数料は他行宛ではありません。同行宛ですから、間違えないでください」

 副支店長がミーティングでそう注意する。そんなことは言われなくてもわかっている。

「俺、M銀行って言えるかなあ? 間違えてF銀行って言っちゃったらどうしよう」

 同期の野々村君が軽口を叩く。それもそうだ。先週まで十数年も「F銀行でございます」と言っていたわれわれが、来週からM銀行と名乗るのだ。

「英単語覚えるみたいに、何度も口に出して練習しておけよ」

「そうだな。M銀行、M銀行、M銀行、M銀行……」

 野々村君はまじめな顔をして早口言葉でも言うようにそう何度も口ずさんでいた。われわれが心配していたのは、おおよそそんな程度のことだった。

 4月1日、当日の朝7時に出社し、取引先課のある2階フロアでいつものように外まわり営業の訪問準備を行なっていた。時刻が9時をまわって、5分ほどがすぎたころだった。

「おーい! 取引先課は全員、ロビーの応援にまわってくれ!」

 副支店長が駆け込んできて大声で叫んだ。

「どうした?」

 野々村君と顔を見合わせた。

 さいたま新都心支店の取引先課は全6課、総勢60名超。その中で手の空いていた課員5人とともにロビーに続く階段を下りたとき、私は見たこともない光景を目にした。

 おびただしい数のお客がロビーフロアにあふれかえり、外の路上まで銀行に入ろうとする黒い頭でいっぱいになっている。

「なんなんすか、これ!!」

 20代の若手が唖然としてつぶやいた。