お客を押しのけながら必死で窓口を整理している、預金担当課の課長代理が説明してくれた。
「ATMが動かないらしい。おまえらは店の外に出て、お客さんをこれ以上店内に入れないよう食い止めてくれ」
「わかりました」と返事をしたものの、ロビーの人垣をかき分けて外に出るのも至難の業だった。おしくらまんじゅう状態で揉みくちゃにされながら、やっとのことで路上にたどりつく。
「お客さま、危険ですので店内は入場制限しております! ご迷惑をおかけします!」
先に大声をあげていたのは、預金担当課の課長だった。だが、声を振り絞るその傍らをお客がどんどん行内へとなだれ込んでいる。
「どうする?」
野々村君が尋ねる。
「手を広げて阻止するしかないな」
もはやお客への説明など無意味
この状況でお客への説明など無意味だった。私たちは両手を広げ、お客が前に行かないように必死で食い止めた。
「じゃあ、お金はいつ下ろせるのよ!」と年輩の女性が詰め寄り、「入れませんじゃなくて、今どうなってるんだか説明しろよ!」と作業着の男性が怒鳴る。
しかし、われわれはただお客を食い止めろと指示されただけだ。何が起こっているのかさえ正確にはわかっていない。
「少しお待ちください!」
再び人ごみをかき分けて、課長のところに向かい、状況説明を乞う。
「俺もよくわからん。どうやらシステムが壊れたらしい。いつ直るのかも聞かされていない」
「じゃあ、どうやって説明するんですか! とりあえずほかの支店をご案内しましょうか?」
「いや、ほかの支店に行っても無駄だ。M銀行全体のATMに不具合が起きているらしい」
「えっ? ホントですか?」
「ああ、俺もさっきお客さんから聞いた」
「……」
言葉が出なかった。M銀行の行員もみんな何が起こっているのかわかっていないのだ。