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 私はまた人ごみをかき分け、さきほどの持ち場に戻った。

「申し訳ございません。危険ですので店内は入場制限しております! ご迷惑をおかけします! 申し訳ございません……」

 何を聞かれても大声でそう答え続けた。

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「わかりません」としか答えられないつらさ

 午後3時、まったく機能しなかった窓口を無理やり閉めた後も、取引先からの怒りの電話に忙殺された。入出金がいっさいできない。いつ直るか聞かれても答えられない。そんな状況が終日続いた。取引先課はロビーのお客整理、そして自分が担当するお客への謝罪で明け暮れた。昼飯を食べることもできず、一日中立ちっぱなしだった。

 何よりつらかったのは「いつ直るのか?」という質問に「わかりません」としか答えられなかったことだ。

 世界最大の巨大銀行グループ誕生の日。支店宛に届いた祝いの生花はすべて人の目につかないところに片付けられ、大量の祝電の束も開封されぬまま事務所の片隅に無造作に置かれていた。

 日も暮れたころ、副支店長から説明があった。

「みんな、朝からご苦労さん。とりあえず、今わかっていることを整理しておく。ATMの不具合は、一部復旧したものの、全面復旧の見通しは立っていない。原因は調査中だが、F銀行とD銀行のシステムをつなぐコンピュータに問題が起きたのかもしれない」

 みんな押し黙っていた。

「明日も一日中ロビー整理かな。しばらく外まわりしないで済むかもな」

 野々村君が私にだけ聞こえる声で冗談を言う。疲労困憊の私には笑う気力も残されていなかった。