独立で抱えた2000万円の借金。それでも“ラーメンの神様”山岸一雄の弟子・田内川真介は「失敗はしない」と確信ができたという。『ラーメンの神様が泣き虫だった僕に教えてくれたなによりも大切なこと 「お茶の水、大勝軒」田内川真介の変えない勇気』より抜粋し、開業前の記憶を辿った。(全2回の後編/前編を読む)
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山岸さんの言葉で、まっすぐ走ることができた
北尾 以前にも少し話を聞きましたが、具体的に独立に向けて動き出したこの頃に、山岸さんから、「真介、おまえだけは味を変えるなよ」と言われたんですよね。そこで、「はい」と即答したということでしたが、「独立」という新たな道に踏み出すにあたって、本音ではどう感じていたんですか。
真介 もちろん、プレッシャーはありましたけど、それ以上に、これで自分の店のコンセプトがはっきりしたという安堵もありました。それでやっていけるのならラッキーなのかもしれない。しかも、マスターからは「昔のメニューの復活をやっていこうか」とも言ってもらえたので、僕がボンヤリと考えていた店のビジョンがより明確になったんです。
「マスターの味を守る」というはっきりとした目標を自分のなかに掲げることができた。あの言葉がなければ、ここまでまっすぐに走ることはできなかったんじゃないかな。
“失敗はしない”という確信
北尾 2000万円もの借金を抱えて不安なときに、素直にそう思えるのは、「この人の言うことを信じて失敗するなら悔いはない」という覚悟ができていたからですよね。
真介 そうですね。そこはなんの迷いもなく、マスターの味を提供できたら失敗はしないという確信が持てた。
北尾 ただ、そうなると、自分らしい味やメニューは封印せざるを得ないけど、それは気にならなかった?
真介 まったく気にならなかったです。だって、マスターは「変えるな」って言うけど、そのオリジナルの味を追求すること自体が僕にとっては永遠のテーマなんです。そもそも僕がどんなに努力しようとも、マスターの域に達することはできない。近くで修業をさせてもらって、僕もそれがわかるくらいには成長したつもりです。それでも、マスターの味にかぎりなく近い味なら提供できるはずだと思ったんです。それに、「復刻版メニュー」が提供できるなら、それこそ唯一の店になれるじゃないですか。