頭の中に「メンタルモデル」をつくる
メンタルモデルとは、人々が世界を理解し、予測し、解釈し、新しい状況に適用するための、自己の心の中のイメージや理論のことだ。チームメイトは「メンタルモデル」という言葉を頻繁に使うが、頭の中で素早く情報処理をするために、何らかの脳内イメージをもっていることが非常に有効なのだ。
例えばMVP( Minimum Viable Product 実用最小限の試作品)はソフトウェアの世界では常識的な考え方だが、どんなに最良のものと思ってつくっていても試作品を世に送り出してフィードバックを受け取ってから改良を重ねる必要がある。だからそれまでは絶対に製品をつくりこまずに実用最小限のベレルに抑えた試作品にしておくべき、という考え方だ。
そうしたフレームワークは、自分の思考の偏りをなくしたり、幅を広げるきっかけになるだろう。
私の場合、「システム思考」というフレームワークを独自にアレンジしたものを採用している。つまり、ソフトウェアのアーキテクチャ、クラスの構造、ソフトウェアのどういったパーツがどこにあるか、システム全体を先に把握してから、部分の状況や相互作用を考慮に入れていく。全体の関係性、フローをビジュアル図としてイメージし、各パートの関係性をあてはめていく思考法だ(図参照)。
もともとは、新しいコードベースに挑戦するとき、変更や機能追加する限られた範囲を理解するために1週間以上費やしていた。知らなかったことを調べ、コンテキストを理解するには時間がかかる。ところが、一旦そういったものが頭に入ってシステム思考ができると、脳内でソフトウェアの動作イメージを素早くクリアに構築できるようになった。つまり、一番大変なのは、頭の中に「メンタルモデル」をつくる行為だ。
問題発見に至るプロセスが大幅に高速化
これがあると、問題が発生したときでも、頭にソフトウェアの動作イメージを思い浮かべて、どこでなぜ問題が起こったのかを想像しやすくなり、ソフトウェアの追加や新規作成も劇的にスピードアップするのだ。
紹介したのは、私がソフトウェアを開発・保守するときのイメージ法だが、あるいは「なぜなぜ分析」という方法を聞いたことがないだろうか? これはトヨタの生産現場から生まれたもので、問題を発見したら「なぜ」を5回繰り返して、根本原因をあぶり出していく手法として有名だ。
自分の業種・業態に合った思考の枠組みを学んだり、経験したりして、自分なりの脳内イメージをつくり上げることができれば、頭の中で考えを整理したり、問題発見に至るプロセスが大幅に高速化する。「メンタルモデル」は固定的な型があるというよりは、本当に人それぞれだ。ここで挙げた例を参考に、自分の仕事に特化した形でアレンジし、思考の枠組みを時間をかけて練り上げるとよい。ホワイトカラーの仕事の場合、仕事の9割は考えることなので、この効果は相当に高いだろう。