「思考の習慣」で、“できない感”から脱却できた
ここまで伝えてきたことは特殊なスキルではない。誰もがアクセスできる基礎は、じっくりと時間をかければ、深く理解できる。やろうと思えばすぐにできるシンプルなことだ。
長年、私はどうやったら自分の「できない感」から脱却できるか、ずっと解答を探し続けてきた。ソフトウェア業界にいて、同僚たちと比べて自分は頭が悪いと思っていたし、どんなに努力して時間とお金をつぎ込んでも、なかなか「できる」感覚が得られなかった。「仕事をコントロールできている」手応えもなかった。
だが、不全感をつくり出していた根本的な要因は、頭ではなく「思考の習慣」にあった。プログラミングもギターも、「早く成果が欲しくて」、目先の結果を求めて頑張ってはかえってできなくなっていたのだ。
どんな人も、最初は難しく、理解には時間がかかるという真実――その本質的な気づきは、最後のワンピースとなって、私が人生で心から欲しかったものを与えてくれた。
自分が仕事をコントロールできているという感覚、何かわからないことがあっても「自分ならやれる」と思える感覚だ。半世紀以上あがいて求め続けてきたものが、アメリカで手に入るとは思いもよらなかった。
好ましい変化はプログラミング技術以外にも訪れた。私生活においても「頭が悪いから仕方がないか」といろいろな理解をあきらめていた。でも時間をかけて理解する習慣が身についたことで、人生の様々な小さなことを「コントロールできている」感を得ることができ、「自分ならできる」という安心感も生まれてきた。
結局のところ、シンプルな日々の積み重ねが一番強い。
eXtreme Programming を開発した、かのケント・ベックは言った。
「私は偉大なプログラマではなく、偉大な習慣を身につけたプログラマだ」と。
牛尾剛(うしお・つよし)
1971年、大阪府生まれ。米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア。シアトル在住。関西大学卒業後、大手SIerでITエンジニアとなり、2009年に独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、2019年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。著作に『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』などがある。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す。
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