北九州連続監禁殺害事件をはじめ数々の凶悪犯罪を取材し、犯人との対話を重ねてきたノンフィクション作家の小野一光さん。原作を務める『罪のあと味』(扶桑社、既刊1巻)は、「犯罪×食」を描く異色のグルメ漫画だ。
「小野さんの取材手法は“スナック事件取材”とも言われています。事件現場を訪ね歩き、地元の飲食店などに毎日のように顔を出して、重要な証言者とつながることで事件の深層に迫っていくスタイルです。本作の主人公・竹内一馬は殺人事件を中心に取材している一匹狼の記者で、食を糸口にして加害者や被害者の心理を深掘りしていく。作中には小野さんが実際に使っている取材テクニックも出てきます」(「週刊SPA!」編集部・近藤史章さん)
本作の漫画を手がけるナカタニD.さんは、心理カウンセラーの資格を持っており、その知識が作中でも活きている。
「ナカタニ先生によると、辛さというものは味ではなく、痛みとして脳に処理されるそうです。大量のからしをおでんに塗りたくって食べる女性が殺害された事件のエピソードでは、大手企業のエリート社員でありながら街娼としての顔を持つ彼女の内面を探るのですが、食にまつわる心の動きが鋭く描き出されています」(同前)
死刑囚やヤクザが愛した味
4人の命を奪った死刑囚が愛したハンバーグ、ヤクザが好む寿司屋の裏メニュー「爆弾」の味、娘を失った父親が洋食屋でビールとオムライスを頼む理由は――。
どのエピソードも実在の事件に着想を得ているため、「黒い報告書」(※)の漫画版のように愛読する人も多いという。
「凄惨な事件が報道されるたびに、SNSには『自業自得』『騙される方が悪い』といった感想があふれ、まったくの他人事として見ているようなところがあります。しかしそこに食という要素が絡むと、事件の加害者や被害者の人柄が浮かび上がり、一歩間違えば自分も“そちら側”になっていたかもしれないとさえ思えてくる。そんなふうに、ありえたかもしれない未来との接点を考えながら『罪のあと味』を読んでいただけると嬉しいです」(同前)
(※)実在の事件に着想を得て小説化した「週刊新潮」の長寿連載