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 テイラー親子の理髪は、とにかく特例続きだった。

 たとえば、作業時間だ。通常なら朝の9時ごろからスタートする理髪作業だが、テイラー親子の理髪は朝7時に行われた。他の収容者の目につかないようにという措置だったらしい。親子が顔を合わせることは絶対にないようにスケジュールが管理され、入室前には厳重な身体検査・室内検査が行われた。死刑囚ではないが、作業はもちろんひとり態勢だ。

「むしろ日本人よりも礼儀正しい」

 もうひとつ異例だったのが、理髪の際に通訳をする職員が付いてきたことだ。

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 それまでも何度か海外のガラを担当したことはあったが、通訳が付いたことは一度もなかった。拙い英語でなんとか注文を聞き出し、不安のなかで作業を進めるしかなかったのだ。

 また、英語を喋れないガラに対しては、前日に舎房で勉強した簡単な日常会話で乗り切るしかないということもあった。

「あの親子の態度はどんな感じだったの? やっぱりVIP待遇で、調子に乗っちゃってる感じ?」

 特例だらけの実情を聞き、パブロの興味は止まらない様子だった。

「いや、その逆です。むしろ日本人のガラよりも礼儀正しい感じがしました。2人ともずっと笑顔で、どちらかというと物珍しそうに全部を楽しんでる感じでしたね」

「余裕あるなぁ。それだと、たくさん会話もできそうだね」

「余計なことは通訳してくれないので、何を言ってるかはわかりませんでした。特に息子の方なんかは、ずっと喋り続けてる感じだったんですけどね」

「息子は手伝わされただけって感じらしいから、自分の状況もあんまりわかってなかったのかもね。それこそ本当に社会見学くらいに思ってたのかも」

「それはそうかもしれません。毎回ソフトモヒカンを希望してて、仕上がりは気に入ってくれてたみたいです」

 マジかよおもしれー、とパブロは無邪気に喜んでいる。

 たしかに、面白い経験だった。死刑囚ではないガラでも、このような特例が存在するのだと身をもって知った。変な言い方にはなるが、私はかなりラッキーなタイミングで収監されたのかもしれない。