フィリピンを拠点に、特殊詐欺を働き、さらには「闇バイト」を駆使して、強盗殺人まで犯していた犯罪グループの存在は、記憶に新しいところだろう。なぜ彼らのような犯罪グループが生まれたのか? そして、その組織や手口はどのように変異していくのか? 長年、アウトローと経済事件の取材を重ねてきた著者が、その歴史を追い、実態を暴いた『特殊詐欺と連続強盗』(文春新書)を一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
強盗殺人事件の意外な黒幕
2023年1月、凄惨な強盗殺人事件のニュースが、日本列島からお正月気分を吹き飛ばした。
1月19日、東京都狛江市駒井町の住宅で、この家の住人である当時90歳の女性が倒れているのが見つかり、現場で死亡が確認された。女性は両手首を結束バンドで縛られ、顔から血を流していた。死因は殴打されたことによる多発外傷で、犯人から激しい暴行を受けたものと見られた。
さらに不気味だったのは、これと関連があると見られる強盗事件が全国で相次いでいたことだ。
警察庁は同月26日、同一グループによる犯行が疑われる強盗事件が東京、茨城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、広島、山口の8都県で14件起きていることを明らかにした。同時に、京都と大阪の両府で起きた強盗事件と、群馬、滋賀、岡山、福岡の各県で起きた窃盗事件などが、同一グループによるものである可能性も指摘した。
実行犯が芋づる式に逮捕されると、彼らを海外から操っていた黒幕の存在も明らかになった。
警視庁は2023年2月、フィリピンから強制送還された4人の日本人男性を逮捕した。直接の逮捕容疑は、2019年に都内の高齢者らにうその電話をかけ、キャッシュカードをだまし取ったとされる窃盗容疑だ。つまりは特殊詐欺事件である。
この特殊詐欺の容疑者らの中に、「ルフィ」や「キム」などと名乗り、連続強盗の実行犯を動かしていた指示役がいたのである。
警視庁は2023年6月29日、4人のうちのひとりである今村磨人被告(当時39歳)が、2022年5月に京都市の時計販売店から高級腕時計6900万円相当が奪われた事件の指示を出していたとして、強盗容疑で再逮捕した。この事件で、奪われた腕時計を運んだとして逮捕・起訴された22歳の男が今村被告の銀行口座に現金を振り込んでいたほか、警察の調べに対し「ルフィと名乗る人物に指示された」などと供述していたのだ。