1ページ目から読む
3/3ページ目

二村は逆境を愚直に跳ね返し、一歩ずつ前に進んでいく

 監督の二村真弘(まさひろ)は、いくつものテレビのドキュメンタリー番組を手掛けたあとで、この映画が初の監督作品となった。

 この映画を撮ろうと思ったのは数年前、林眞須美の長男のトークイベントを観覧したことが契機となった。そのトークイベントで、事件に冤罪の可能性があることを知ったのだ。この長男が、映画の中心的な役割を担っている。

 しかし、二村にとって事件取材は初めてで、勝手が分からないことだらけだった。裁判記録にアクセスすることもできず、判決文さえ閲覧できない。死刑囚である林眞須美に面会することはできず、文通も家族に限られていた。

ADVERTISEMENT

 しかし、二村はそうした逆境を愚直に跳ね返して一歩ずつ前に進んでいく。

いまの眞須美はどのような表情になっているのか

 同業のジャーナリストとして刮目するのは、ほとんどすべての関係者に直当たりしているという点だ。事件が起こった町では、コメントはほとんど取れず、事件を担当した捜査官や検察官、物故した裁判官の遺族にも直撃取材するが、芳しい結果は得られない。

 その直撃取材のほとんどは無駄足に終わるのだが、そうした無駄の積み重ねがこの映画に厚みを加えている。

 

 だが言うは易し、行うは難し。取材を嫌がる相手に、手紙を書いたり、直撃取材したりするのは、気力と体力をすり減らすのだ。けれども、そうしたひたむきな姿勢が、この映画を観るに値する作品に仕上げている。

 事件当時30代後半だった林眞須美は、獄中で還暦を迎えている。しかし、われわれの網膜に焼きついているのは依然としてマスコミに水をまく若き日の林眞須美である。果たして、いまの林眞須美はどのような表情になっているのか。われわれがその顔を再び見る機会は、めぐってくるのだろうか。

◆◆◆

『マミー』
2024年8月3日公開
東京シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:二村真弘
製作:digTV 配給:東風
©2024digTV
公式サイト:http://mommy-movie.jp