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一部で喧伝された「ゴーンと西川は対立関係にあった」は事実なのか?

 しかし内部調査による数々の不正の証拠を見せられ、私はこう思った。

「不正行為があったのは明白な事実だ。これは動くしかない。とんでもないショック、混乱が起きるだろうが腹をくくってやるしかない」

 覚悟を決めたのだった。ところがゴーンが逮捕された後、次のような見方が一部で喧伝された。

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「ゴーンと西川は対立関係にあった」

 そんなことは絶対にない。しかし、その言説はゴーンの主張する「日産の陰謀」説の裏づけにまんまと利用された。私に言わせれば、それこそ陰謀である。

 ゴーンが日産の再建に乗り出した後、最初の何年かはパトリック・ペラタ氏をはじめ優れた側近が彼を支えていた。ゴーンに意見できる存在がいたのである。次第にゴーンが偉くなりすぎたのか、周りにはイエスマンが増えていった。

「日産よりゴーンさんが大事」

 そう考える取り巻き連中が幅をきかせるようになったのだ。彼らはきっとこう騒ぎ立てたに違いない。

「サイカワはゴーンさんに反対している」

ゴーン改革の優れていた点は素直に評価すべき

 そこに日産内の一部の日本人が過剰反応して「ゴーンと西川は対立関係にある」という言説が広まり、ゴーンによる「日産の陰謀」論が増長していったのだ。多くの人の証言や耳打ち、それまでの経緯を総合したうえで、私はそう推察している。

©文藝春秋

 私はゴーン改革からゴーン事件までを自分の経験として一人称で語れる数少ない人間の一人だと思っている。ゴーンの不正そのものは断罪されるべき悪しき行為だった。それは紛れもない事実だ。しかし一方で2000年以降ゴーン体制の下で進められたゴーン改革、特に内なる国際化、リーダー層の人材構成、意思決定、業務プロセスの革新といった様々な経営改革のすべてが不正と同列に扱われ、否定されてしまうことを私は強く懸念している。

 不正は不正として明確にする。そのうえでゴーン改革の優れていた点は素直に評価し、改革を進める中で浮き彫りになっていった日本型組織の課題も私の視点で分かりやすくお伝えしたいと思っている。