2018年11月、金融商品取引法違反で逮捕された日産自動車元会長のカルロ・スゴーン氏。350億円を超えるとも言われる不正はナゼ起きてしまったのか。そしてそのことを知った西川廣人社長(当時)は……。ここでは西川氏の著書『わたしと日産 巨大自動車産業の光と影』(講談社)より抜粋。イギリス出張中に事件の一端を聞かされた瞬間の記憶を辿る。(全3回の2回目/前回、続きを読む)
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不正を知ったあの日のこと
私は2018年10月8日、英国のオックスフォード大学で講演した。「ニッサン・インスティチュート・オブ・ジャパニーズ・スタディーズ(日産現代日本研究所)」主催の講演会で「日本の産業界におけるリーダーシップ」と題して話したのだった。
同研究所は1981年に日産の寄付でオックスフォード大学内に設立されている。当日は日本を研究する大学院生をはじめ、教授や助手ら200人近くが熱心に耳を傾けてくれた。
講演会には日産専務のハリ・ナダも参加していた。教授陣との懇談も終わり、ロンドンの宿に向かおうとする私を呼び止め、ナダが言った。
「サイカワサン、ちょっと話をしておきたいことがあるんだけど」
「分かった。明日の朝、僕のホテルのロビーで待っているよ」
そう答えて別れた。
10月9日朝、ロンドン。私は部屋を出てロビーに向かった。ナダがすぐに私の姿を見つけて立ち上がった。
「おはよう、サイカワサン」
いつものナダはもっとくだけた調子で話すのに、妙にあらたまって口調が硬い。私はナダをソファに座らせ、彼の隣に腰を下ろした。
「サイカワサン、実はシリアスマター(重大な問題)が起きているんだ。ミスター・ゴーンに関して……」
「おいおい。いったい、どういうことだ」