刑事事件に発展した事案のほかにも多くの不正があった
さらに特捜部は同年12月21日、ゴーンを会社法違反(特別背任)の容疑で再逮捕する。ゴーンが個人的に所有する金融商品の損失を一時的に日産に付け替えたほか、信用保証に協力したサウジアラビアの実業家に日産の資金を送金した疑いだ。
ゴーンは2019年3月6日にいったん保釈されたが、特捜部は4月4日、ゴーンが日産の資金をオマーンにも不正に支出していた疑いが強まったとして彼を再逮捕する。日産は4日後の4月8日に臨時株主総会を開き、ゴーン前会長とケリー前代表取締役を取締役から解任している。
結局、ゴーンは金商法違反と特別背任容疑で計4回逮捕され、すべての件で起訴されたのだった。しかし、ゴーンは保釈中の2019年12月29日に日本から不法に出国し、中東のレバノンに逃亡する。私が本書を執筆している2024年2月の時点で、ゴーンの公判は開かれていない。
そもそもゴーン事件は日産社内の内部通報に端を発し、外部法律事務所との連携による調査によって様々な不正が見つかったものであり、刑事事件に発展した事案のほかにも多くの不正が確認されている。
日産は2019年9月9日、それらをまとめた結果を「元会長らによる不正行為に関する社内調査報告について」として公表した。
同報告はゴーンによる「取締役報酬開示義務違反」や「役員退職慰労金打ち切り支給額の不正操作」に加えて、次のような日産の資産の私的流用を指摘している。
まずゴーンは「将来性のある技術に投資する」との名目でオランダに投資会社「ジーア社」を設立させ、同社の資金約二千七百万ドルをブラジルやレバノンにあるゴーン個人の豪華邸宅の購入費用などに充てていた。
さらに2003年から10年以上にわたり、実体のないコンサルティング契約に基づいてゴーンの実姉に計75万ドル超の金銭を支払っていた。