“自助なしに、高齢社会に対応することはできない——。新NISAに込められた政府の思惑を、作家の橘玲氏はこう解説する。世間が騒然とした「老後2000万円問題」をふまえると、新NISAによる資産形成は若者だけのものではないという。

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「老後」を短くするために……

 岸田政権は人口減に歯止めをかけようとしているが、健康保険や介護保険の赤字から独居高齢者の増加、孤独死にいたるまで、超高齢社会の負の側面はこれからさらに顕在化してくる。社会保険料を際限なく引き上げて現役世代に負担を押しつけると、少子化がさらに加速してしまう。

 だからといって年金支給額を減らすと、高齢の生活困窮者が大挙して生活保護を申請し制度が破綻する。現役世代の負担と高齢世代への給付のバランスは一歩踏み外せば奈落に堕ちる綱渡りのようなものなのだ。

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 老後問題というのは「老後が長すぎる」という問題なので、それを解決するもっとも簡単な方法は老後を短くすることだ。人生100年時代に60歳でリタイアし、年金生活を始めると老後は40年もある。

 だが80歳まで働けば老後は20年、医師の日野原重明さんのように105歳まで現役で活躍すれば「老後問題」そのものが存在しなくなる。――毎月10万円の収入でも年120万円、10年で1200万円、20年で2400万円だからこれだけで「老後2000万円問題」は解決してしまう。

新1万円札 ©時事通信社

 このように考えれば、長期の資産形成はけっして若者のためのものだけではなくなる。65歳になっても年金受給を繰り下げて働き、その収入の一部をNISAで積み立てれば、80歳や90歳になったときにその果実を無税で受け取ることができる。対して60歳でリタイアし、繰り上げ受給で減額された年金以外の収入がなければ、あらたな資産をつくることはできないだろう。

 格差の拡大が引き起こす社会・経済問題をどのように解決するかという困難な問いを脇に置いておけば、重要なのは、健康が許すかぎり楽しく働き、資産形成を続けることだ。「生涯現役」や「貯蓄から投資へ」という政府の掛け声を毛嫌いするひとがいるが、北欧などリベラルな福祉国家も含め、先進国はすべて同じ方向に向かっている。もはや“自助”なしに、高齢社会に対応することはできないのだ。