月3万円で1億6300万円
NISAのメリットがどれほど大きいか、簡単な試算をしてみよう。
ファイナンス理論では国債は「無リスク(安全)資産」で、元本と利払いが国家によって保証されている。それに対して株式投資は元本の保証がなく、リスクが高い分だけ平均的には国債よりリターンが大きくなるはずだ。
このリスクプレミアムは5%程度とされ、長期国債の金利を2%とすれば、株式市場に長期に投資した場合の期待リターンは7%になる(合理的な投資家は、5%ほどのプレミアムがないと株式に投資せず国債を保有する)。
これを「机上の空論」と思うかもしれないが、アメリカの株式市場の代表的な指標であるS&P500(大手企業500社の株価の平均)の過去10年の平均リターンは年率10%を超えている。アメリカの株価はグローバル株式市場にほぼ連動するので、世界経済が今後も年率7%程度の成長を続けるという予測はさほど大胆なものではない。
20歳の若者が月額3万円を世界株式に積み立て、年平均7%で運用できたとすると、10年で元金の360万円は約520万円になる(利益は160万円、収益率44.4%)。NISAならこの全額を受け取れるが、(課税対象になる)特定口座だと譲渡益に20%(+復興特別所得税)の税金がかかり、約32万円を納めることになる。
長期投資の最大のメリットは、複利の力によって、投資期間が長くなればなるほど利益が雪だるま式に膨らんでいくことだ(アインシュタインは複利を「人類最大の発明」と呼んだとされる)。
NISA以外は意味がない
NISAの非課税保有限度額は1800万円なので、この若者が50年間、月3万円の積み立てを続けたとすると、投資元本(1800万円)に対して資産は9倍の1億6300万円、利益は1億4500万円に(理論上は)なる。――表1でわかるように、月額3万円の積み立てでも、運用期間が長期になるにしたがって利益は急速に増えていく。これが複利のパワーだ。
ところが課税口座だと、この利益に対して2900万円もの税金を払わなければならない。さらには、株式やファンドの配当・分配金にも税金がかかるが、NISAではこれも非課税なので、全額を再投資に回すことができる。そう考えれば、NISAが断然有利な制度だとわかるだろう。
もちろんNISAには、1年間に非課税で投資できる上限(成長投資枠と合わせて360万円まで)が決まっているとか、信用取引で投資にレバレッジをかけたり、空売りができないとか、損失が出たときに他の譲渡益と損益通算できないなどの制約がある。だがこれらはかなりの資産を運用するセミプロにとっては重要でも、老後のために資産形成したいふつうのひとたち(あなた)にとってさしたる意味はないだろう。
そうなると、「NISA以外で株式投資をする理由はあるのか」という単純な疑問が生まれる。そのシンプルな答えは「なにもない」だ。