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「今日は何も食べたくない。ごめん」

 そのまま部屋にこもり、布団に入る。布団で横になっているとこれまでの銀行員生活のさまざまなシーンが思い起こされ、自然と涙がこぼれてきた。

 引き継ぎ最終日、有志が送別会を開いてくれた。ふつうなら自分の課の部下に囲まれ、思い出話、苦労話で盛り上がるところだが、私の部下は誰も同じテーブルにいなかった。彼らはみんな、私が「営業失格」の烙印を押されたことを知っている。だから、腫れ物に触るように遠ざかる。

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「俺たちが課長の人生変えちゃったのかな」

 途中でトイレに立った。用を足してトイレから出ようとすると、前の廊下で部下2人が立ち話をしていた。

「なんか俺たちが課長の人生変えちゃったのかな」

「でも銀行員なんだから、そんなもんだろ。銀行員の宿命ってやつだろ」

 悔しい気分もあったが、すでにいろいろなことを受け入れ始めていた。

 彼らが言っていたとおり、これは宿命なんだ。

写真はイメージ ©getty

 八潮支店での私の成績は、飛び抜けていいとはいえなかった。それでも与えられた営業目標はなんとか達成していた。当初はよそよそしかった2課の部下たちとも少しずつ関係性を築いていた。課全体で営業目標に向かって突き進む“チーム”を作りあげつつあった。少なくとも私はそう実感していた。

 堂島支店長が私を異動させた理由は、今でもまったくわからない。明確な説明は何もなかった。ただ言い訳するように「目黒君は女子ウケがいいから大丈夫だな」と言われたことを覚えている。

 営業人生に関わる異動なら、理由は本人にきちんと説明すべきだろう。

 2022年現在では、栄転であれ、そうではない異動であれ、支店長が本人に次の支店での活躍を期待する旨などを直接伝えるようになってきている。

 念願の「取引先課課長」人生はこうして失意のうちに終演した。

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