結局、自分が逮捕されてしまったと自嘲気味に笑った。
ひょっとしたら殺した後に死体を埋めようと思ったけど埋められなかったのかもしれない。樹海の地面は溶岩なので硬いのだ。表面に乗っかっている腐葉土はとても薄い。掘れば、すぐに硬い溶岩が出てきてそれ以上掘れない。もちろんそんな事は聞けない。
「生きたまま、自動車に乗せて、樹海に向かって車を走らせた」
殺した相手は肝の据わっている男で、殴っても、切っても、心が折れずニヤニヤと笑っていたそうだ。
「そういう奴を大人しくさせる方法ってなんだと思う?」
いきなりクイズを出された。僕はもう、話を聞いているだけで心が折れている。分かりませんと首をふる。
「そういう時はな、相手の肉を食ってやるんだよ。足でも、腕でも、生きたまま肉を削いで。自分の肉が生で食われてるとこを見せるんだ。すると、どんだけ勢いがある強い奴でも、ヘタッと心が折れる」
それは折れるだろう。
「あとは、目の前でそいつの家族を殺すのも効く。人によっては、悪いのは本人だけで家族は関係ない、かわいそうだ、とか言う奴がいるけど、俺には理解できない。悪い奴の稼いだ金で買った米を食ってブクブク太っておいて『私たちは関係ない』は通らない。そいつらは悪い奴の一部だ。俺は殺すし、食う」
食うのか。聞いているだけで、目の前がチカチカとしてきた。
大人しくなった男を樹海に連れていき、樹海の中を歩かせ、首を絞めて殺したのだという。死体は、そのままそこに放置した。
「トイレ休憩しましょう」
編集者はハンドルを切ってサービスエリアに入り、自動車を停めた。
「お前、焼きそば好きなのか?」
車内ではずっとひどい緊張状態にあったので、少しホッとした。トイレを済ませて出てくると、Nさんが外に置かれたテーブルで焼きそばを食べているのが見えた。
「お、焼きそばいいっすね! うまそうですね」と調子に乗るタイプの若い編集者がNさんに話しかけていた。Nさんはじっとその編集者の顔を見た。
「お前、焼きそば好きなのか?」
「好きっすよ」
「そうか」
Nさんは素手で焼きそばをガッと掴んだ。そしてその手を差し出した。
「好きなら食え」
サービスエリアにキリキリと緊張感が走る。