「Nさんに擬似的に殺されてみましょう」……出版社の企画で元ヤクザの男に殺されかけたライターの村田らむ氏。恐るべき環境下で彼はどうやって助かったのか? そして人殺しも恐れない凶悪男はその後どうなったのか? 新刊『樹海怪談 潜入ライターが体験した青木ヶ原樹海の恐ろしい話』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

写真はイメージ ©getty

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「この人、マジで殺す気だ!! ヤバい!!」

 車は蝙蝠穴の駐車場に停まった。そこから徒歩で樹海の内部に入る。実際、Nさんは、深夜にこの駐車場に自動車を停めて、捕まえた敵の暴力団員と樹海の内部に入っていったのだ。その時は、男はまだ生きていた。仏心からではない。殺してしまったら、死体をかついで歩かなければならないからだ。夜中の樹海を男の死体を抱えて歩くのは不可能だ。

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 ある程度、進んだ場所で男を殺した。

 その場所がどこなのかは正確には覚えていないという。それはそうだろう。殺したのは10年以上前なのだ。樹海のどこで殺したのかまで、覚えているわけがない。

「正確な場所は分からないが、ここらへんだと思う」と言ってNさんは立ち止まった。

 すると、今までほとんど口をきかなかった編集者が、唐突に提案してきた。

「せっかくNさんと来ているわけですから、Nさんに擬似的に殺されてみましょう」

 何を言ってるか分からなかった。

 そう言うと、編集者は三脚でビデオを固定して去っていった。つまり、ドッキリ企画だったらしい。

 樹海の中に本物の人殺しのNさんと2人きりにされた。脳がジンジンとしてくる。

「じゃあ、やろうか?」

 Nさんはニッと笑った。

 ああ、これは捕食者の笑顔だ、と思う。断るわけにもいかず、Nさんに言われた通り、Nさんと背中合わせになって立った。

 頭上からロープが下りてきて、首にかかった。手は拘束されていなかったので、反射的に手でロープに触った。その瞬間、グンッ!! とすごい力でロープが引かれた。

 柔道の背負い技の要領で僕の首を絞める。

 首とロープの間に挟まった指が一気にうっ血する。たまたま指が挟まったから気道は確保できたが、ガチで首を絞められていたらどうなっていたか分からない。

 なかなかやめない。グイグイと絞め続ける。

 指が挟まっていても、気道も血管も締まり、風景が青っぽく変化する。

 この人、マジで殺す気だ!! ヤバい!!

 ジタバタと暴れるがどうにもならない。

 その瞬間、ふっとロープの緊張がとけた。解放され、地面に膝からしゃがみこむと、ゲボゲボと激しく咳が出た。過呼吸になり、口からよだれがツッと垂れる。

「情けないなあ。ここで殺された奴だってもっと堂々としてたぞ。男らしくしろよ」

 Nさんはそう言うと笑った。

 僕も笑顔になろうとしたが、できなかった。編集者たちが置いて行ったカメラを片付け、駐車場に戻る。