「心が折れない奴を大人しくさせる方法ってなんだと思う?」……ひょんなことから“人殺しの元ヤクザ”と富士樹海に行くことになったライターの村田らむ氏。道中、元ヤクザから出されたクイズの「怖すぎる答え」とは? 新刊『樹海怪談 潜入ライターが体験した青木ヶ原樹海の恐ろしい話』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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人殺しと樹海に行った話
某出版社から電話があった。
「人殺しをインタビューして欲しいんですけど、大丈夫ですか?」
当時の雑誌はかなり過激なことをやっていたが、それでもこの依頼には驚いた。
人殺しと言われても、どんな人殺しなのか分からない。
「編集部に、殺人罪で刑務所に入っていたという男から手紙が来たんですよ。『自分を取材しないか?』という売り込みでした。獄中でうちの雑誌を呼んでいたみたいで。でまあ、とりあえず話を聞いてみようかと……」
その雑誌は、不良グループや暴力団を扱うことが多く、刑務所内で読まれることも多かった。
「いいですけど、どこでインタビューするんですか? 編集部でいいんですか?」
「あ、いや。自動車の中でインタビューしてもらおうと思って」
自動車の中? かなり変則的だ。
「彼、樹海で人を殺して、死体が見つかって逮捕されてるんですよ。だから一緒に樹海に行こうと思って。一緒に樹海へ移動しながら、インタビューしようという企画です」
人殺しと一緒に、殺害現場である樹海へのドライブをする。厭な企画だ。
当日、駐車場で「人殺し」を待つ。
件の「人殺し氏」が現われた。名前は、Nさんという。見た目には三十代半ばで中肉中背の男性。オールドスタイルの黒いコートを着込んでいた。
終始笑顔なのだが、ニコッと爽やかなスマイルではない。攻撃的な、肉食動物の笑い顔だ。背中がゾクッと冷えた。
挨拶を交わしてワゴンに乗り込んだ。
編集者2名と僕と人殺しのNさん。4人を乗せたワゴンは高速道路を山梨方面に走っていく。
「当時はテレクラで荒稼ぎしてた。繁華街にはたくさんあっただろ。俺の島を乗っ取ろうとする男がいた。そいつももちろん暴力団。でなんとか逃げて殺されずに済んだ。で、逆に相手をさらった」
さらった後は監禁して、軽く拷問をしたそうだ。
「俺、組の中では長いこと“拷問”と“殺人”を担当してたのね。ビルの中に、監禁と拷問と殺人の専門の部屋があったから。別に殺すのは平気だったし、何人殺したかも覚えてないよ」
淡々と、とても恐ろしいことを言う。
ふかしてウソを言っていると思いたいが、目の前の男は本当に刑務所に入っていて、最近出てきたばかりなのだ。
「殺すのは平気だけど、その時だけ殺す方法を変えたのが失敗だった」
普段は密室で殺して室内で処理するのに、樹海に捨てるという方法を採った。
「樹海に死体を放置したら報道されるだろ。それが敵に対して脅しになればと思ったんだけどな」