コロナ禍での日々、違和感を流さずに立ち止まって考えてみる
「スーパーボランティア」と言われた尾畠春夫さんに発奮してランニングを始める西川さん。東日本大震災から未解決の問題を「アンダーコントロール」という欺瞞で覆い隠して招致した東京オリンピックに対するスポーツ観戦好きとして感じる違和感。
連載中にコロナ禍に突入し、不安が募るなか、政府の方針で緊急事態宣言となった日々。あらゆることがストップし、周りとの兼ね合いで決断を迫られながらの映画人としての活動。一年の延期を経て聖域とばかりに進められるオリンピック開催に対する不公平感とジレンマ。アスリートたちの精進はそれとして、おおきなものに利用されることで付いてしまった意味合いや、不自由ながらも支配はうけていないという映画人としての矜持。映画業界での「長年の慣習」として膠着した思考を変えていかなければという反省。
西川さんの文章には強引な誘導や断定は出てこない。日々のなかで感じた違和感を「そういうもの」として流さず立ち止まって考えてみるのだ。
答えの出ないことは多いが、ためつすがめつしたうえで、答えが出ないことは答えの出ないこととしていったん棚に上げてみる。強引な結論は出さない。そのかわり機会があればどんどん自分以外の意見も聞いてみる。
そんな著者の姿を見ていると、明日もとりあえず生きてみようと思えるから不思議だ。皆が本書というハコウマに乗ってみれば、ちょっと世界がよくなるかもと思ってしまう。
こかいゆみ/ジュンク堂書店池袋本店勤務。現在「本屋大賞」実行委員を務めている。「WEB本の雑誌」などでも活躍。