なぜ女は「父の娘」になってしまうのか
和田 そうなんです、今となっては後悔していますが、当時は父の側に立って、母を悪しく言ってました。
田嶋 そんな娘と夫を捨てて離婚して、ずっと1人で飯を食っていく。素敵じゃない。
和田 思い返すと、父はいわゆる「毒親」で、私の存在を否定してました。子供はあまり好きでなく、姉がいたので1人で十分だったらしく、「お前は生まれてこなくてよかった子供」と言われながら育ったんです。私は母には勝手なことをいっぱい、ひどいことも言ってきたけれど、逆に私のことを全く認めない父の気に入るような行動をしていたんだと思います。
本来なら父の価値観に反旗を翻す「母の娘」になるべきだったのに、逆に父の価値観を内面化した「父の娘」になってしまった。今年9月に文春新書から刊行予定のご著書のゲラを読ませていただいて、先生が書かれていた「父の娘」という概念を知り、ハッとしました。私こそ「父の娘」だって。
田嶋 世間という男社会から認めて欲しいからこそ「父の娘」になってしまう、世間の女性の多くはそうだと思う。でないと、いじめられるし、生きにくかったから。父親は男社会の代弁者でしょ。日本は会社も議会も男社会だから。父親にまず気に入られないってことには女にとって落第なわけ。
和田 ああ、本当にそうですね。今とても腑に落ちています。
田嶋 多くの場合は、お母さんも「父の娘」で、男社会の手先みたいなものだから、娘を結婚に適した人間に、二級市民に育て上げようとする。それが「女らしく」なること。そうしないと妻としての役割が果たせない。うちの母はそれに必死になっていた。
父の娘というのは、良妻賢母のこと、すなわち「妻」と「母」の役割をしっかり果たす「自分」なしの女性。自分がないわけではないけれど、自分を殺して生きているから、十二分に自分を生きられなくて、意地悪になったり、娘の邪魔をしたりする。
※議員時代の苦悩や35歳での一軒家購入、現在のシニアハウスでの暮らしやおひとりさまの老後について語った対談全文は、『週刊文春WOMAN 2024夏号』でお読みいただけます。
撮影=釜谷洋史/文藝春秋
たじまようこ/1941年生まれ。英文学・女性学研究者、書アート作家、シャンソン歌手。元法政大学教授、元参議院議員。津田塾大学大学院博士課程修了、2度のイギリス留学。女性学研究者としてマスコミで活躍。2024年9月に文春新書より新刊を刊行予定。
わだしずか/1965年生まれ。相撲・音楽ライターにして、政治ジャンルで『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』(左右社)の3冊を上梓。
【週刊文春WOMAN 目次】特集 なぜ今、1990年代ブーム?/野宮真貴×小室哲哉 あの頃の渋谷/香取慎吾 90年代を描く、語る/田嶋陽子 83歳のフェミニズム/佐藤愛子 ぼけていく私 第2弾!
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2024年6月20日 発売
定価715円(税込)