・卵を持って戸惑う猿人たちを尻目に、コロンブスは誇らしげに卵にヒビを入れて立ててみせる。これはよく知られた「コロンブスの卵」の逸話だ。MV中では白人が猿人(有色人種、先住民)に「ものを教えてやる」という上から目線のシーンが散りばめられている。これは世界史を紐解けば入植に伴う「教育」、つまり言語・宗教の強制や、その後の強制労働等を暗示しているととられても仕方ない。
このように、ごく一部を取り出してご紹介するだけでも、驚くほど「アウト」なイメージが散りばめられたMVなのだ。単なる「無知による偶然」というよりは、コロンブスのアメリカ到達が発端となって起こったその後の先住民からの収奪・搾取の歴史を、むしろ「忠実、そして巧妙に」そしてポップに明るく仕立てたものに見えた。
レコード会社とアーティストによる謝罪は早かった
一連の出来事で評価できるのは、まず、ミセスの所属するユニバーサルミュージックの迅速な対応だ。リリースから24時間以内にMV公開停止、広報文を出したことだ。
そのプレスリリースには「本映像はMrs. GREEN APPLEの所属レーベルであるEMI Recordsと所属事務所Project-MGAで制作」と制作者を明記。「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現」と公開停止理由もはっきりと書き、「当社における公開前の確認が不十分」とチェック体制の不備を認めている。
本邦でのこのような件におけるお詫び文としては、かなり簡にして要を得たものといえよう。いわゆる「ご不快に思わせたならごめんなさい」系のお気持ち謝罪ではなかった。
また同日、ミセスのボーカル大森元貴もバンドのオフィシャルサイトでメッセージを掲載している。MV制作にあたり「・年代別の歴史上の人物 ・類人猿 ・ホームパーティー ・楽しげなMVという主なキーワードを、初期構想として提案しました」「『コロンブスの卵』というキーワード」とあり、おそらく制作クレジットの一番上に彼の名前があったのは、こういった全体のおおまかな方向性、アイデア出しを最初にしたということだろう。