アーティスト本人のお詫びがMV公開停止の当日に出たこと自体、評価できる。例えば椎名林檎のツアーグッズが、障害や病気を抱える人たちのためのヘルプマークに酷似しており販売停止となったときには、最後まで椎名林檎本人の声明が出ることはなく、ファンの間にはフラストレーションがたまっていたからだ。
ボーカル大森元貴の謝罪文から透けて見える3つの問題
一方、大森の謝罪メッセージには気になる点が3点あった。
1点目は「類人猿が登場することに関しては、差別的な表現に見えてしまう恐れがあるという懸念を当初から感じておりました」「スタッフと確認し合い」とある。アーティストが抱いていた懸念を、周囲が打ち消して制作が進められたようだ。
しかし、MVの監督(ディレクター)やレコード会社は何をしていたのか。チェック体制に問題があったといわざるをえない。ここは検証され、公表が望まれる。歴史をモチーフに扱うのなら、考証やコーディネーターをつけるべきだっただろう。
コカ・コーラは「コカ・コーラ社はいかなる差別も容認しておりません」「弊社ではミュージックビデオの内容に関しましては、事前に把握をしておりません」とまったくMVに関与していないと声明を出した。
だが「コロンブス」の歌詞には「炭酸の創造」「乾いたココロに注がれる」など、コカ・コーラを直接想起させるワードが散りばめられており、そもそもコカ・コーラありきでつくられた楽曲であることは明白だ。MV中にも透明なコップに入ったコーラとおぼしき飲料が繰り返し出ていた。
ビジネス上のリスクより、大前提の「人権意識」を
2点目は「前向きにワクワクできる映像にしたいという気持ちが、リスクへの配慮をあやふやにし」という言葉だ。もしかすると「差別表現にあたらないか」「誰かの尊厳を傷つけるものにならないか」ということを書きたかったのかもしれないが、それを「リスク配慮」という短い言葉にまとめるのは非常にビジネスライクである。