全国からの寄贈本だけで作られた福島県矢祭町の町立図書館。この場所で開かれた「手作り絵本コンクール」でノンフィクション作家の柳田邦男氏は選考委員を務めている。「思わずその場で一部を朗読した」と柳田氏が絶賛したのは、とある小学4年生の作品だった。
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15回目の「手作り絵本コンクール」
2023年10月24日(火)
福島県の南東部、茨城県境にある矢祭(やまつり)町に出かける。手づくり絵本コンクール選考会のため。水戸方面に流れる久慈川沿いに田畑がささやかに開けた中山間地の町だ。人口は約5800人。
18年前の2006年5月に遡る。「田舎暮らしでも本を読みたい」「図書館が欲しい」「子どもたちの心の成長のためには絵本や児童書が必要だ」という住民の声を受けて、町はネットで全国に向けて発信した。
「書店もない町なので、何とか図書館をつくりたい。しかし町の財政が乏しいので、皆様の家に読まなくなった本がありましたら寄贈して頂けませんでしょうか」
たちまち反応が現れ、わずか3か月後の8月には、全国から寄せられた本が40万冊を超えた。静かな町にとって、それはもう“事件”だった(最終的には48万冊に達した)。
こうして翌2007年1月14日、「矢祭もったいない図書館」の名称で、全国初の寄贈本だけによる町立図書館がオープンに漕ぎつけたのだ。そして、町は様々な読書活動に取り組んだ。
全国的に関心を集めたのは、手づくり絵本コンクールだ。その第1回は2009年。今年ではや15回を迎えた。
今年の応募作品のなかで、私が「こういうのが親子でつくる手づくり絵本の楽しさだなあ」と言って、思わずその場で一部を朗読したのは、福島県内の小学校4年菊内瞳真(きくうちとうま)くんが母親の助言を受けながら制作した『じいちゃんのおもしろことば』だ。
表紙絵は、じいちゃんの顔。四角い顔に両目も眉も鼻も小さく四角で描き、唇だけがハート型で赤く塗ってある。眉間(みけん)と両頬のしわが、いかにも愛すべきじいちゃんらしく描かれている。その表情は、頁をめくると、より大きくひたむきな雰囲気で描かれる。
〈ぼくのじいちゃんは、/福島県白河市の山の中に住んでいる。/ぼくがいくと、いつもおもしろいことばを話す。〉
絵では、2階建ての赤い屋根の向うに山また山があり、山裾には大木が林立している。次の頁のじいちゃんの目つきが真剣になっている。
〈たうえをてつだったとき/「そっちさいぐど(いくと) つんのめっとー(ころぶぞー)」〉
〈しごとがおわったとき/「あぁこわい(つかれた) けんぺぎはった(肩こった)」〉
〈しっぱいしたとき/「さすけねぇー(だいじょうぶ)」〉