「柳宗理さんとは共鳴する部分がありました」。「文藝春秋」2022年5月号より、染色家の柚木沙弥郎氏による「『民藝』は僕の原点」を一部転載します。

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時代が僕を捕まえた

 先日、東京・立川で開かれていた僕の展覧会「柚木沙弥郎 life・LIFE」に予告なしで行きました。仕事を手伝ってくれている人に車を出してもらって、車いすで。僕に気づいた人たちがビックリした顔をしていて、おもしろかったね。

柚木沙弥郎氏 ©文藝春秋

 入口には絵本の原画が展示されていて、その先にはポスターや人形なんかが続く。最後に「布の森」が広がっていました。

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 飾られたのは、1950年代から2020年までの約50点の染色作品。それぞれの布には、まゆ玉、縞、あるいは四角やハートの組み合わせ、人や鳥の絵柄……さまざまな模様を、型染という技法を使って色とりどりに染めたものです。

 近年の僕の展覧会は、フランスの美術館で開かれたものを含め、若い人の姿が目立ちます。彼らは僕の作品を見て、口々に「かわいい」と言います。初めはおかしいと思って聞いていたけど、「おもしろい」「美しい」「感動した」といった意味がみんなこの一言に含まれているんですね。今どきの言葉ですね。

 僕の作品は深刻な美術じゃなく工芸だし、分かりいいものがたくさんある。だから、年齢も国境も関係なしに喜んでもらえるのでしょう。

 この展覧会は、巡回が検討されているところです。

展覧会ポスター

 僕は今年で100歳ですが、80歳くらいから精神が自由になったと感じます。染色家として布を染めるだけではなく、アートの枠にとらわれずにいろんな表現をするようになりました。注目される機会が増えたのもこの頃からです。

 高齢になって新しいことに取り組むと「挑戦」と言われますが、自分ではこの言葉を使いません。すべて自然の流れでやってきたことだからです。僕は普通にしていただけですが、時代が僕を捕まえたんだよ。

 柚木氏は日本を代表する染色家であり、絵画や版画、立体造形といった幅広い作品を生み出すアーティストだ。1922(大正11)年、東京・田端生まれ。1946年、岡山・倉敷の大原美術館で勤務時に、柳宗悦の提唱した民藝運動に出合い、柳を師とする染色家・芹沢銈介(せりざわけいすけ)に師事することになる。