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 この元留学生は、自分たちに対するハニートラップも盛んに仕掛けられたと証言する。ロシアに駐在経験がある日本政府の元当局者は「ロシア(ソ連)はロマノフ王朝時代から秘密警察の伝統がある国。暗殺やハニートラップなどお手の物だろう」と語る。実際、旧ソ連時代には、モスクワ近郊に女性工作員を育成する施設があったと聞いたという。「男性に対する誘惑の仕方からベッドテクニックまでを教えていたそうだ」。

北朝鮮流・ハニートラップの技術

 ソ連に影響されたのか、北朝鮮も独自のハニートラップの技術を磨いてきた。かつて脱北者や日米韓の政府関係者らから聞いた証言を総合すると、もっとも「可愛い」手段としては、韓国や日本からの訪問客との会食の席で女性に相手をさせて油断させるというものがあった。

 訪問客の背後には大きなカーテンがかかっている。訪問客が酒を飲み、女性に気を取られているうちに、カーテンを静かに上げる。そこには巨大な金日成主席の肖像画があった。隠しカメラで撮影すれば、「金日成主席の肖像画の前で、北朝鮮女性とデレデレする男」という構図の出来上がりだ。

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 また、高麗ホテルの地下や招待所などで女性に性接待させる場合もあった。当然、隠し撮りをして、あとから脅す。身持ちの固い人物には、ホテルの部屋の前まで煽情的な服装をした女性を派遣する。部屋にいた男性が断っても、「このまま帰れば、政治的に迫害される」と泣き落とす。気の毒に思って部屋に入れると、女性が自ら服を脱ぎ始め、やはり隠し撮りされる。

北朝鮮は独自のハニートラップの技術を磨いてきた。身持ちの固い人物には、煽情的な服装をした女性を宿泊先のホテルの部屋の前まで派遣。男性が断っても、「このまま帰れば、政治的に迫害される」と泣き落とし、気の毒に思って部屋に入れると、女性が自ら服を脱ぎ始め、隠し撮りされる ※写真はイメージ ©アフロ 

 長期滞在者らには、もっと高級なテクニックを使う。街で偶然会ったように見せかけ、わざとそこでトラブルに巻き込まれたふりをして、ターゲットの男性に助けてもらう。その後、お礼をしながら、徐々に間隔を詰めていくという。

ソ連仕込みの“非常手段”

 ロシア(ソ連)仕込みの非常手段はほかにもある。ソウル中央地検は2011年10月、携帯型の銃や毒針など、北朝鮮が暗殺用に使う武器を公開した。脱北者の男が、この武器を使って同年9月に韓国の人権団体代表を殺害しようとした。武器は万年筆型と懐中電灯型の銃とボールペンの先に針を仕込んだ毒薬カプセルの計3種類。銃は先端に刃物がついた弾丸が飛び出す仕掛けで、射程約10メートル。弾丸や針に10ミリグラムで呼吸停止や心臓まひを起こす毒薬が仕込んであった。毒劇物による暗殺を得意とした旧ソ連の影響を受けたものだ。