――六郎が「争い」ではなく「戦わないこと」を夢見るようになったのは、令那や繁の影響がかなり強いと感じました。ただ、親族の影響もあるのではないでしょうか? 六郎の一族は、血で血を洗う骨肉の争いをしていますよね。
河野の一族って、かなりエグイくらいもめてますね。
でも僕は、順風満帆な家だからこそ人を信じられるんじゃなくて、信じられなくなった人こそ、「信じたい」という欲求があって、だからこそ「繋がれる」と思ってます。そういう経験をしてきた六郎だからこそ、(結末のような)行動が出来たんです。
司馬遼太郎、藤沢周平、池波正太郎から体得したもの
――今村さんが書かれる小説は、「史実とされている出来事の解釈の仕方」が秀逸で、いつも感銘を受けています。河野一族が肉親同士で争っていたことや、「後築地」もそうです。
独自の解釈だけど、それが史実とズレていない。むしろ「新しい意味」を持たせ、読者に納得感を与えてしまう。そのようなキレのある史実の解釈を、常に生み出せる秘訣は?
天才なんちゃうかな(笑)、いやいや(笑)。
プロットの話もそうだけど、読書量だと思います。これは、単純に。
歴史小説は大概読んできたから、色んな作家さんのやり方が僕の中に入ってる。だから「司馬さん風にいくとどうやろ。藤沢さん風なら……。池波先生ならどう書くだろう。けど、この三人の隙間を通して、こうか」とか、自分の体の中に完全に入ってて。
プロットも、なんとなく小説のリズムや構成が染み付いてて、「再現できるな」って自信はあります。だから天才というか、努力の方だと思いますね。
――少し話は脱線しますが、今村さんの小説は男性主人公が多いですよね。女性の主人公を書きたいと思ったことはありますか?
ある。……あるけど、まだ出てない。そこはやらなアカンと思ってます。どっちかと言うと僕は男の人を書く方が得意で、編集者さんや選考会とかでも言われる時があるけど、女性に対しての憧れみたいなのが強いのかもしれない。
そういう意味で言うと、そこの殻を破ったのも『海を破る者』で……。今まで僕の書いてきた女性とは違う、カッコイイとか、キュートなだけじゃないのは、令那が初めてじゃないかな。
――令那には「抱えている闇」もありますよね。いつか今村さんの書かれる悪女主人公も読んでみたいです。
日野富子はちょっと書いてみたい。アクが強いじゃないけど、資料が残ってて、当時の経済や銭を絡ませて描けるような、そういう人を書いてみたいって想いはありますね。
(取材・構成/沢木つま)