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「ヒグマが突進、死ぬほど怖かった」“子連れグマ”との距離は数メートル、手が震えて…動物カメラマンが恥を忍んで告白

二神慎之介さんインタビュー #2

2024/06/30

genre : ニュース, 社会

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避難小屋の前に親子グマが居座り…

――昨年7月頃は大雪山の白雲岳の避難小屋の目の前に親子グマが居座り、話題になっていました。なかなか出会えないシチュエーションでもあるので、カメラマンが殺到し問題にもなっていたようですが、あのクマは撮りに行ったのですか。

二神 あのエリアでクマを撮ろうと向かっている途中、携帯電話で山小屋のSNSを見たら「キャンプ場の近くに親子グマが居座っている。危険なので山小屋の利用は自粛してほしい」という書き込みがあったんです。それを見て引き返しました。この状況で行くのはちょっと違うだろうと……。でもそのまま行っていれば、いい写真が撮れたんじゃないかって、そのあと、くよくよ悩みましたけど。

――プロのカメラマンもけっこういたそうですよ。

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二神 むしろ、それでこそプロと言えるのかもしれません。でも僕はもう撮れればいいという考えにはなれないんですよね。ああやって大挙して押しかけると、クマが人慣れしてしまう恐れもあります。単純に僕自身がクマを恐れているのもありますけど、今、それ以上に怖いのはクマの人間に対する反応の変化なんです。

「鳥が騒ぎ出したな」と思っただけでゾクゾクすると語る二神。それはヒグマが現れるサインでもある ©中村計

――昨年5月には、朱鞠内湖で釣り人が襲われるだけでなく捕食されるという衝撃的な事件も起きました。

二神 これまで、そういう事故の話を聞かなかった場所なので驚きました。クマに襲われるケースって、いちばん多いのは出会い頭なんです。予期せず遭遇してしまって、クマがパニックを起こして人間を襲ってしまう。でも朱鞠内湖の場合はヒグマが自ら近寄っていき、人間を捕食した可能性が高い。そういうクマが出てきたら、人間は何の対処もできません。それは従来のヒグマの行動では考えられないことなんです。何かのきっかけでクマの遺伝子情報が書き換えられつつあるのかもしれません。

――僕も10年以上前、3泊4日で知床の山に入ったことがあるんです。あたりは糞だらけなのにヒグマの姿はチラリとも見えない。こんなにも人間の前には姿を現さない生き物なんだと思ったんですよね。

二神 その頃までは、クマの方がちゃんと避けてくれるという前提があった。でも今は、その考え方も古くなりつつある。だから、もはや見通しの悪い森の中でクマを撮影するという時代ではないのかもしれません。そう言いつつも、もう一回はちゃんと撮りたいと思っている自分もいるんですけどね。ただ、そうしたら最後、おれはクマに殺されちゃうのかなとも思うわけです。そうなったら絶対にいけないんですけど。

 ヒグマの夢を見るときは、たいてい怖い夢なんです。最近は、ヤバいと言われているクマのいる森に僕が入っちゃって、そのクマにジロッて睨まれている夢とかが多いですね。

「ヒグマが突進、死ぬほど怖かった」“子連れグマ”との距離は数メートル、手が震えて…動物カメラマンが恥を忍んで告白

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