内縁の妻である緒方の母親、妹と強引に肉体関係を結び、そのことを家族に公表して夫婦・親子間を分断……。マインドコントロール下に置かれた一家6人が互いを拷問・虐殺した凶悪事件「北九州監禁殺人事件」はなぜ起きたのか? 主犯・松永太死刑囚の恐るべきマインド・コントロール手法を新刊『世界の殺人カップル』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

犯罪史上でも類を見ない凶悪事件「北九州監禁殺人事件」主犯の恐るべきマインド・コントロール手法とは? 写真は松永太死刑囚(中学時代の卒業アルバムより/写真提供:小野一光)

◆◆◆

最初の殺人

 1990年ごろ、バブル崩壊のあおりを受け、ワールドの売り上げは急落。松永は、緒方の他にも数多くいた愛人女性たちの名義で金融機関に金を借りさせ、会社の運用資金に充てていた。彼女たちの中には2千500万円もの債務を背負わされたり、自殺した者もいたそうだ。

ADVERTISEMENT

 そんな松永の動向は警察もマークしており、1992年7月に詐欺罪と脅迫罪で指名手配する。対して松永と緒方、最後までワールドに残っていた男性社員の3人は、いったん石川県に逃亡し、ほとぼりの冷めた同年10月、拠点の北九州に舞い戻る。このとき、ワールドは事実上破綻しており、ほどなく松永と妻は離婚。緒方は1993年1月、松永との間にできた男児を出産した(1996年3月に次男誕生)。

 1995年、金に窮していた松永はマンションを仲介してきたBさん(当時34歳)に目をつけ、一流メーカー勤務を詐称したうえで投資話を持ちかけた。信頼を勝ち得たところでBさんと内縁関係にあった女性を別居に追い込み、彼の娘A子さん(同10歳)を緒方が預かる形にして毎月、養育費16万円を要求。さらに親族・知人から1千万円以上を借り奪い取った。

 やがて会社を辞めたBさんが松永たちのマンションで同居するようになると、アルコールに弱かったBさんを泥酔させ、かつて彼が犯した罪を聞き出し弱みを掌握。

「緒方や自分の娘に性的虐待をした」など嘘の事実関係確認書を強引に書かせることで自分の支配下に置く。さらには、食事にラードを乗せた白米しか与えなかったり、睡眠時間を管理するなどしてBさんを虐待。

 特筆すべきは、ここで松永が彼に使った「通電」である。これは、電流を流した2本の金属棒を焼跡が残るほど体に押しつける拷問で、ワールドの従業員が偶然感電したのを見て発案、成績の上がらない従業員にも強要していた手口である。

 電流を流され続けた結果、Bさんはしだいに衰弱し、1996年2月に死亡。遺体は緒方とA子さんに処理させ、彼女らに自分が殺人に加担したという罪の意識を植えつけた。ちなみに、松永はBさんの遺体の首を切断して血抜きしたうえで、包丁やノコギリで各部位を細かく切断。鍋で煮込んで肉と骨を分離させた後、肉をミキサーで細かくしてペットボトルに入れて近くの公衆便所に流し、骨は細かく砕いて船から海に投棄している。もちろん、自分は指示するだけで、実際に行ったのは緒方である。