『全力!脱力タイムズ』など数々のバラエティ番組に出演していることでもお馴染みの、経済評論家・岸博幸さん。現在も出演を続けているが、実は2023年にがんと診断され、余命と向き合うことになったという。

 ここでは、岸さんが“最期に言いたいこと”をまとめた『余命10年 多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』(幻冬舎)より一部を抜粋して紹介。苦しい入院生活を乗り越えて退院後も治療を続けながら、岸さんがすぐにテレビ出演の仕事に復帰した理由とは――。(全3回の3回目/最初から読む

岸博幸さん ©杉田裕一

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無菌室フロアでの“軟禁生活”

 2度目の入院では、無菌室フロアの個室に入れられた。抗がん剤を使用することで、感染症に罹患するリスクが高くなるからだ。

 抗がん剤によって、一時的にではあるが白血球の値がゼロになるので、免疫力は著しく下がる。口の中いっぱいに口内炎ができたり、下痢を発症して肛門が傷ついたりすれば、それらの粘膜から菌が入り、全身に回ってしまう危険性もある。

 だから、無菌室フロアに入れられるのは当然のことだと、頭では理解していた。……つもりだったが、この“ほぼ軟禁状態”に、ほとほと辟易してしまった。

 まず、一般病棟の入院では可能だった、コンビニなどの病院内の他のエリアに行き来することが禁じられる。なので、飲み物などを買いたくても、自分で行くことは許されず、看護師さんにお願いすることになる。

 次に、無菌室フロアには、談話室やラウンジのような場所は一切ない。

 長期間入院する患者が多いので、退院後、スムーズに社会復帰できるように患者専用のリハビリルームが設けられているが、それが病室以外で時間を過ごせる唯一の場所。

 さらに滅入ったのが、無菌室フロアで提供される食事はすべて“無菌食”であったこと。生野菜など加熱殺菌処理されていないものは出ないし、お茶やコーヒーにしても、淹れたてではなく、紙パックや缶に入ったものだけ。薄味が基本で、お世辞にもおいしいとは言えない病院食が、さらに味気ないものになってしまったのは、すごく悲しいことだった。