そして、朝の「よろしくっす!」もモヤモヤしてくる。こんなに明るく自分の尿ペの片づけをお願いする人も珍しい。
現場が動揺している。
しかし、休憩は終わる。作業を進めなければならない。
尿ペ屋敷の難点の一つに、「尿の出元と会うとなんか進まなくなる」というのがある。
尿ペを作った張本人を目の当たりにすると、常に顔がチラつくのだ。
あの爽やかな人が……。僕のゾーンは完全に解けた。
作業を再開するも、半分まで進むのに3時間はかかった。この時点で尿ペは200本以上出てきている。200個のあの爽やかな顔が並んでいる。
爽やか尿ペ顔を振り払い、さらに掘っていくとベッドが出てきた。ベッドの周りはほぼ尿ペで囲まれている。作業自体は分別していくだけなので早いのだが、後が思いやられる……。
リビングの作業がすべて終わった頃には夕方になっていた。十畳のリビングのごみだけで、2トンロングトラック4台分。何より、尿ペが500本強出てきた。現場のトイレで流す時間がない……、どうする?
苦渋の決断を社員が下す。
「一旦持って帰ります」
……全員が頭を抱えた。
現場での作業は終了となった。
不動産屋風スーツ住人が再び現れた。「いやぁ、大変でしたね! ありがとうございます。今度は別の部屋をお願いしようかな! ハハッ!」と、爽やかに僕ら全員の顔を見渡しながら言ってきたので、顔を伏せながら「是非!」と答えるのがやっとだった。
地獄の尿ペ開封ノック
僕たちは帰社後、倉庫に計500本の尿ペを運んだ。
後日、倉庫のトイレで地獄の尿ペ流し500本ノックが始まる。尿ペは時間が経つと中で劣化が進み、蓋がかなり開きにくくなる。
力任せに開けると、スプレー状の尿がプシュ! と炭酸のように飛び出てくる。
ペットボトルと蓋の間から紫色の煙が出て来て、渦を巻きながら上がり、僕の目の前で悪魔となって大きな口を開けてウハウハと笑っている(完全に僕の個人的なイメージ)。
住人はいないので、存分に「おえぇ!!」とえずけることだけが救いだ。
尿ペを流している僕を見た社員曰く、50本を超えたあたりで僕の白目と黒目の境目がなくなり、ほぼ白目になっていたらしい(彼の個人的なイメージ)。
250本で他のバイトとバトンタッチ。
500本すべての開封作業を終える頃には鼻がなくなっていた(僕の個人的なイメージ、ね)。
どんな人が尿をペットボトルに入れるかは誰にもわからない。
今回の現場で、尿ペの闇深さを知った。