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傑作『絞首人』をいかにして書きおおせたのか

 見方を変えれば、これはアメリカの持たざるものたちの反逆の物語でもある。シャーリイは傑作『絞首人』をいかにして書きおおせたのか。そこには、持てるものたちを巻きこんだ深謀遠慮があったかもしれない。

©2018 LAMF Shirley Inc. All Rights Reserved

 スタンリーは宣言する。「私は塩の海から戻ってきた」と。旧約聖書で罪の都ソドムとゴモラが沈められたあの死海のことだ。振り返らずに逃げ切ったものは塩の柱になることなく、物語を書くという罪は果たされるだろう─そんな見方もできる。

 どの角度から観ても恐ろしい映画に違いない。そして美しい。

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シャーリイ・ジャクスン 1916年、サンフランシスコ生まれ。48年、短編「くじ」で名声を確立する。『絞首人』(51年)は、実際に起った少女失踪事件の影響が見られ、本作はこの作品の執筆時期をモチーフにしている。『丘の屋敷』(59年)はスティーブン・キングに影響を与えたと言われ、『ずっとお城で暮らしてる』(62年)は、ジャクスンの最高傑作と評されるゴシックミステリー。その後闘病生活に入り、1965年、48 歳の若さで心不全により死去する。

『Shirley シャーリイ』
INTRODUCTION
 スティーブン・キングがその影響を受けて『シャイニング』を書いたと言われるアメリカン・ゴシック作家、シャーリイ・ジャクスン。
 彼女の伝記や作品、夫・スタンリーとの数百通の手紙をもとに制作された心理サスペンスだ。作家自身のキャラクターと執筆過程を描きながら、まるでその小説世界に迷い込んだかのような幻惑的な映像となっている。
『透明人間』『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』などで知られるエリザベス・モスのシャーリイという作家の深奥に肉薄する怪演が見どころだ。

STORY
 1948年、短編「くじ」が一大センセーションを巻き起こした後、シャーリイはスランプから抜け出せず悩んでいた。夫のスタンリーは、部下のフレッドとその妻のローズに家事や妻の世話をしてほしいと頼み共同生活を送ることに。
 シャーリイはローズを通じて、次第に執筆のインスピレーションを得、ローズはシャーリイのカリスマ性に魅入られ、2人の間には奇妙な絆が芽生えていく。しかし、この風変わりな家に深入りしてしまった若い夫妻は、やがて自分たちの愛の限界を試されることになるのだった。

STAFF & CAST
監督:ジョセフィン・デッカー/出演:エリザベス・モス、マイケル・スタールバーグ、ローガン・ラーマン、オデッサ・ヤング/2019年/アメリカ/107分/配給:サンリスフィルム/7月5日公開