1969年に人類が月に降り立ってから約半世紀。

 JAXAの小型月着陸実証機SLIMが撮影した月面の画像が地球へ送信されたり、NASA主導によるアルテミス計画で日本人宇宙飛行士が月面着陸に参加することが報じられたりと、月探査計画は遠い国の出来事ではなくなってきた。

 国際的には航空宇宙開発で遅れをとっている韓国においても、斯様な世相が影響していることを韓国映画『THE MOON』に感じるのである。

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月面で孤軍奮闘する姿を、ハリウッド級のVFXで描く。新人宇宙飛行士を演じるド・ギョンス ©2023 CJ ENM Co., Ltd., CJ ENM STUDIOS, BLAAD STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED

SFパニック映画と実録物の要素を融合

 宇宙を舞台にした映画は製作費のかさむ大作となる傾向があるため、潤沢な資金を望めるハリウッド映画のお家芸だったという経緯がある。

 一方で、中国映画『流転の地球』(19年)のようなSFパニック大作が、近年はハリウッド以外でも製作されるようになってきた。

 そういった変化の中で『THE MOON』が秀でているのは、SFパニック映画の要素と『アポロ13』(95年)のような実録物の要素との融合を試みている点にある。

物語の舞台を2029年にしたことで「あるかもしれない」

 モキュメンタリー映画的な映像構成で幕が開ける『THE MOON』は、現代の韓国ではなく、近未来の韓国という設定である点が巧妙なのだ。

 人工衛星の打ち上げにおいても、韓国は海外の技術に依存しているという厳しい現実があるからだ。アメリカに次ぐ月面着陸成功へ再び挑むという物語の舞台を2029年にすることで、「あるかもしれない」サイエンスフィクションとして成立させているのだ。

5年前の有人ロケット爆発事故の責任を取り、組織を去った当時のリーダー、ジェグク役を、韓国を代表するベテラン俳優、ソル・ギョングが演じる ©2023 CJ ENM Co., Ltd., CJ ENM STUDIOS, BLAAD STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED

 それゆえ本作には、月に埋蔵された資源の国際的な争奪戦や太陽風の影響など、現実の問題が盛り込まれている。今年5月には、太陽フレアによる磁気嵐の影響で通信障害の恐れがあると報じられたばかり。

 現実と乖離した科学技術ではなく、劇中では現代と地続きの技術によってミッションを完遂させようとしている所以だろう。

 それは、この映画がVFXを売りにするだけではない点にも表れている。

NASA統括ディレクターのムニョン役は、ドラマ「クイーンメーカー」のキム・ヒエ ©2023 CJ ENM Co., Ltd., CJ ENM STUDIOS, BLAAD STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED

 兵役後初の長編映画出演となったEXOのド・ギョンスに加えて、『オアシス』(02年)のソル・ギョングや『ユンヒへ』(19年)のキム・ヒエ、意外な役割を担う『デシベル』(22年)のキム・レウォンなどのスター俳優による、科学者たちの葛藤を描いた人間ドラマにもなっているからだ。