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 その具体的な業務内容は、〈ヒグマが出没した際の見回り、箱わなによる捕獲を中心とした駆除、緊急的に必要となったエゾシカの駆除〉とあるが、山岸は苦笑する。

「ほかにも箱わなの巡回、熊を捕獲した場合の止め刺し(トドメ)、熊の死体の運搬・解体・処理も業務に入ってます。何のことはない。鳥獣被害対策として考えられる作業は、ほぼすべて我々がやることになっているわけです」

 その上で提示された日当が4800円+アルファだったのである。

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2023年5月、朱鞠内湖で釣り客を襲ったと見られるクマ。船上から撮影された直後に駆除された(上川総合振興局提供)

まったく現場を知らない人が文書を書いている

「文書を受け取った段階で、日当の低さもさることながら、業務内容やこの事業の枠組み自体、いろいろと問題が多いなと感じました。町役場の担当者には、(奈井江部会の)仲間と相談した上で、ゴールデンウィーク明けに返事をすると伝えました。みんなで改めて文書の内容を検討したところ、やっぱり『このままじゃ、とてもやれない』という話になった」

――この文書の何が問題だったのでしょうか。

「例えばこの文書では、箱わな設置後の見回りを我々も行うことになっていましたが、これは法律違反です。鳥獣保護法には、わなの見回りはわな設置者が行うという規定があるからです。奈井江町の場合、町役場で唯一わなの設置資格を持っているのはAさんという職員だけで、実質的に彼の責任でわなを設置するわけだから、見回りはこのAさんが行わなきゃいけないはずです。一事が万事この調子で、鳥獣駆除がどういう法的な根拠に基づいて、運用されているか、まったく現場を知らない人たちが文書を書いている、という印象を受けました」

写真はイメージ ©iStock.com

 そこで山岸らは、現実的に対応可能な改善策を「実施隊の業務(案)」として15項目にまとめた。この案では、例えば、わなの見回りはわな設置者が行うこととし、さらに駆除後の獲物の運搬や解体については「猟友会としては行わない」ことなどを明記した。

 というのも、エゾシカにしろ、ヒグマにしろ体重何百キロの死体を現場から運び出し、さらには車に載せて処理場まで運搬し、解体することは、とてつもない重労働である。そこまでやって日当4800円+アルファでは、対価としてあまりに見合わないからだ。

 その日当について山岸らの案では、ヒグマの緊急出勤の場合は「1回あたり1名に付き 4万5000円」、それ以外の獲物については「1万5000円」としている。

 ヒグマの緊急出勤の手当は、道内でも自治体によって異なる。例えば札幌市の場合は1回2万5300円、捕獲・運搬した場合は3万6300円が支払われる。また道南の島牧村(人口約1300人)では、1日2万6900円、緊急出勤のときは4万300円、さらに捕獲した場合は10万円の報奨金が追加で支払われる。

 山岸らの出した4万5000円という数字は、国や北海道、JR北海道などに準じたという。