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猟友会の「黒い歴史」

――この4万5000円というのは、絶対に譲れない数字だったんですか?

「いや、そうではないです。組織の予算規模や地域によって、報酬に差が出ることはもちろん理解しています。この金額は、ヒグマの駆除というリスクの高い仕事の基準価格として出しました。JRや国がこれぐらい出している仕事なんですよ、というひとつの意思表示です。ただ、我々が一番言いたいのはそこじゃないんです。だって報酬でいうなら、これまで我々は実質無報酬でクマの駆除をやってきたんだから」

札幌市内の茂みに隠れていた ©時事通信社

――えっ、無報酬だったんですか? 

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「まぁ、ボランティアです。なぜそうなったかといえば、話は20年ぐらい前に遡るんですが、猟友会にも“黒い歴史”があるわけですよ」

 山岸が言う“黒い歴史”とは、かつて自治体から出る報奨金などが、猟友会の中で既得権益と化し、いざこざの元となっていた実態を指す。

「そもそも狩猟というのは我々が趣味でやっていることで、通常は狩猟税を払って許可を貰ってやるわけです。一方で駆除というのは、“お上”から降ってくる仕事ですから、同じ獲物を撃つのでも報奨金が出る。あるいは民間の測量会社がダムを作るために森の中で測量作業をするのに、ヒグマ対策で護衛が必要というような場合も、猟友会に依頼が来て、個々のハンターに割り振られるわけです。例えば日当2万5000円の護衛で、その測量調査が半年続けば、出動日数が多い人だと50万とか60万とか余裕で稼げる。報酬の出る駆除の仕事を猟友会内でどう割り振るか――そこに利権が生まれてくるわけです。結果、全国の猟友会はこの利権をめぐってあちこちで分裂してしまいました」

苦い経験を経て、基本的に報奨は受け取らないことに

写真はイメージ ©iStock.com

 そういう苦い経験を経て、山岸たちのグループ(現・奈井江部会)は「面倒のタネになるから、駆除に際して我々は基本的に報奨は受け取らない。欲しい人は、個々人で手続きする」(山岸)というスタンスになったのだという。

――つまり、これまで山岸さんたちが実質的にボランティアでやってきた仕事を、今年からは奈井江町主導の「鳥獣被害対策実施隊」の枠組みでやりましょう、という話になったということですか? 

「まぁ、そういうことです。そもそも各自治体で鳥獣被害対策実施隊を作ることは、平成19年に農水省が定めた規則134号(鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律)に基づいています。だから、本来であればこの根拠となる法律に基づいて、業務内容が決めていかないとおかしい。ところが町役場からの文書を読んでも、この法律に関しては1行も触れていない。『町長の任命であなた方はこういう実施隊に入ることになるから。日当はこれで』ということしか書かれていなかった」